食品メーカー・飲食店のネーミングの方法(商品名やメニュー名の決め方)

 飲食店のメニュー名や、加工食品の商品名等、つまりネーミングを決める(考える)方法や手段を説明します。

 商品名やメニュー名(ネーミング)を決める方法は主に 7つに集約できます。これらは単一の選択でもOKですが、複数組み合わさった方が、お客様の印象に残るため、常々、複数を組み合わせて検討するよう、助言しています。なお、7番目にある「1番伝えたいことをネーミングにする」は、既存商品やサービスでしか使えない側面もありますので、内容の確認を御願いします。

目次
1.一般呼称の文字遊びでネーミングする
2.食材や原材料の希少性や限定性を文字にしてネーミングする
3.体験や体感できることをネーミングにする
4.商品や料理のシズル合わせでネーミングする
5.商品や料理の存在感を体現するよう一般呼称でネーミングする
6.何だろうと疑問を持たせるよう(気を引くように)ネーミングする
7.1番伝えたいことをネーミングにする

1.一般呼称の文字遊びでネーミングする

 一般呼称とは、その商品や料理の総称と考えてもらって差し支えありません。せんべい、ポテトチップス、カレー、オムライスといったものです。つまり、誰が聞いても理解できる総称と言えます。文字遊びとは、平仮名やカタカナ、ローマ字等を組み合わせたり、当て字をあてがったりするということです。例えば支援先では、下記画像のような豆腐とお肉を使った鍋料理の定食があります。

 当初、肉豆腐定食とうたっていました。入っている具材を表した「主たる具材を端的に表している」ネーミングとも言えますが、何せ「シズル」が弱いという印象で、お客様の反応も今一つでした。

 そこで、文字遊びをすすめました。着眼したのは「腐る」という言葉です。これが「食欲をそそらないので、注文しない理由なのでは無いか」そのように考えたのです。また、「腐る」という言葉が、集客に寄与しそうなイメージが持てないと、事業者と会話したものでした。

 豆腐にコダワリがある料理のため(地元の在来大豆を使った自家製豆腐に個性があるのだから)、豆腐という言葉は外せないということでしたので、文字遊びを決行したのです。

 具体的には、次のように「腐る」を「富」に変えて、メニュー名(ネーミング)を一新しました。つまり、「腐る」を「富」に変えたのです。

 ×:肉豆腐定食  〇:肉豆富定食

 この売りの看板メニューの定食を食べてもらえれば、「お客様が何だか幸がありそう!」「身体の健康に貢献できそう!」といったイメージを持っていただけるのではと考えたのです。このようにお客様の方で、注文する(消費する)意味を見出してもらえるよう誘発するところがポイントで、それを記号消費(詳しくは、こちらをクリックしていただけると詳細がわかります)と呼びます。

 成果としては、上々で従来の月間注文件数を翌月で1.43倍上回ることに成功し、今では全体の売上の6割が、このメニューが占めています。

2.食材や原材料の希少性や限定性を文字にしてネーミングする

 加工食品であれ、飲食店のメニューであれ、何かしらの食材のコダワリは、ヒットするメニュー開発や、ヒットする新商品開発において、ある意味、必須な時代になりました。その食材が希少であったり、限定性があればあるほど、お客様には魅力的に映るのも事実でしょう。このように食材にコダワリがある場合は、そのコダワリを可能な限り出し尽くして、その中から、お客様が購入したい、注文したい(消費したい)とする理由(記号消費)を、商品名やメニュー名に反映するようにします。

 例えば、新商品の菓子パンの事例では、次のような3つの食材の特長がありました。

 ・発酵バター使用

 ・自家製の酵母使用

 ・イタリア産の天日塩使用

 このように、まずは使用している食材の希少性等を、可能な限り書き出してみることが重要です。その上で、競合と比較し、(冷静に)同質的な差別化要素を取り除きます。ここでは、「自家製の酵母を使用」と訴求する点が、「お客様にとって、他社と類似に判断されそうな要素」だとしました。立地しているベーカリーやパン屋さんの場合は、商圏内の競合に類似のPRをしている商品が無いかを、確認していけば良いでしょう。

 結果、残った食材のコダワリ(希少性、限定性)は、発酵バター、天日塩となり、これをを商品名(ネーミング)することとしたのです。つまり。天日塩バターパンです。

https://www.yamazakipan.co.jp/

 しかしながら、読者の皆さんも理解いただけると思いますが、何だか歯切れが悪い感じがしませんか。実際、数人に確認しても、言いにくい、話しにくいといった印象でした。そこで、塩とバターにコダワリがあることだけを伝えようということで、塩バターパンと称したのです。

(注目!)ネーミングでお客様に伝わり切れない「伝えたい情報」は、上記画像のように、POPで補足します。ネーミングを聞いて、塩は何?バターは何?といった疑問に応えるように表現すると良いでしょう。なお、このネーミングでは、塩とバターが記号になっています。消費者(お客様)が「きっと!塩とバターは特別な仕様なのだろう!」と、購入する意義や意味を見出すことを意図したものになります。

3. 体験や体感できることをネーミングにする

  こちらは、説明よりも事例を先に紹介した方がわかりやすいのでは無いでしょうか。支援先ではありませんが(食品メーカーや飲食業ではありませんが)、小林製薬さんが、この手法のネーミングが1番上手な気がします(個人的な所感)。例えば以下のような商品です。

https://www.kobayashi.co.jp/seihin/nss/

 このシートを、おでこに貼ると、熱をグングン取り除いてくれるという体験や体感をネーミングにしています。消費者(お客様)は、熱を冷ますものという意味や意義を、この商品に期待しますので、まさに記号消費と言えます。また、イラストそのものでも(商品名:ネーミングが無くても)、視覚的に理解できますので、このイラストそのものも記号ですね。

 余談ですが、先の塩バターパンも、体験や体感でネーミング可能です。先の画像にあるように、食感や風味として、ジュワッと溶けたというポイントを持っていますので、この点を強調した「ジュワッと口溶け塩バターパン」といった表現も面白いかもしれませんね。

4.商品や料理のシズル合わせでネーミングする

 支援先の居酒屋では、Instagram等のSNSを意識した下記画像のようなサラダを商品化しました。みやま小カブを千枚漬けのようにスライスしたサラダです。御覧いただくと理解いただける通り、誰が見てもカブです。そこで商品名を「かぶサラダ」としたのです。

 なお「カブサラダ」という選択もありましたが、全てカタカナは、何だか商品に硬さがあるようで、当所、注文点数が伸びませんでした。それを文字遊びすることで(つまり、カブを平仮名にする)、注文点数が前月比で2倍を超えたのですから、如何に文字遊びが重要かを物語っていると言えます。

5.商品や料理の存在感を体現するよう一般呼称でネーミングする

  皆さんの主力商品やメニューは何でしょうか。少なからず、何かしら売行きが良いものがあるかと思います。ここで紹介するネーミングの方法は、その主力商品やメニュー(料理)に設定しやすい手法と言えます。

 ポイントは、その主力メニューや商品を消費者(お客様)が見たときに、何が1番存在感があるかを、ネーミングに反映するということです。反映には、その存在感を、大文字で強調したり、鍵かっこで示したり、その存在感を説明するようにします。例えば支援先では、次のようなカツカレーがあります。

 この場合、カツを大文字にしたカツカレーという表記、「カツ」カレーというようにカツを鍵かっこで強調した表示、ご飯が見えないカツカレーというシズルを表現した表示等々が考えられます。同店の場合は、オシャレなカフェですので、結果的には「カツ」カレーと称することにしましたが、仮に食堂等や、男性のランチ客等をターゲットにするようなお店であれば、「ご飯が見えないカツカレー」というのも面白いのかもしれませんね。

 これは、注文する前から、消費者に、シズルやスペックを創造してもらえる手法で、ヒットする商品やメニュー名で多用されています。既に売れている商品や料理があればおススメのネーミングです。

余談ですが、先の塩バターパンも、「塩」という文字が大きいことにお気づきでしょうか。

このように、いろいろなネーミング手法を組み合わせることで、「更に!」ヒットするネーミングを創りやすくなるのです。

(備考)当店のメニューに、当社の商品に、本当の意味で(見た目の売上に惑わされず)主力が無いとお悩みの方。ぜひ、主力メニューや商品を発見してみませんか。その発見の仕方を紹介した記事がありますので、合わせて御覧ください(⇒多属性態度モデル活用による主力商品やメニューの発見)

6.何だろうと疑問を持たせるよう(気を引く)ネーミングする

 このネーミング手法は、とにかく品質に自信がある方におススメしたい方法です。1度食べれば病み付きになる、1度食べればリピート間違い無し!といった完成域に達している商品やメニューには、ぜひチャレンジしてもらいたいものです。

 具体的には、気を引くようにネーミングすれば良い!といったもので、ルールなどありません。面白い、どういう意味?といった具合に、お客様が(消費者が)知りたいと足を運んでもらえるかがポイントになる取組です。つまり、記号消費という考えの「1番わかりやすいアプローチ」かもしれませんね。

 以下に事例を示しますので、読者の皆さんが、気を引かれた(気を魅かれた)、気になって仕方がない!と思えるようであれば、そのネーミングは成功だと言えます。

7.1番伝えたいことをネーミングにする

 これはPOPやチラシを作成する際にも使える「キャッチコピー」の作り方からネーミングを決めていくプロセス(⇒詳しくはこちらをクリック)です。ただし、このネーミングのアプローチは、「既に発売済みの商品やサービスの見直しにしか活用できない側面」があるので、ご注意ください。

 POPやチラシの作成のアプローチで説明したとおり、まずは9つほどの切り口から、商品の特長を洗い出します。その際、下表のような視点になるのですが、切り口の中に、販売実績や、お客様の感想等、既に発売済みでなければ記入できない箇所があります。従って、「既に発売済みの商品やサービスの見直しにしか活用できない側面」があるとお伝えしているのです。

 キャッチコピーの創出の仕方は、この9つの切り口から、お客様に1番伝えたい論点をピックアップして、それをネーミングに仕立てるということになります。下記は豆腐の特長から「冷ややっこ」が1番おススメしたい特長だとしたPOPです。従って、ネーミングは、この特長を伝えるように「冷ややっこ専用豆腐」「冷ややっこで食べる絹豆腐」等々になるわけですね。

最後に:商品やメニューの存在価値を忘れないで

 商品やサービスが、将来に渡り、売れ続けるには、誰かにとっての(消費者にとっての)価値が無ければ、成しえませんね。ですから、その料理(メニュー)や、その商品が、誰のためにあるのかを明確に意識して、ネーミングを考えていくと、より上手く事が運びます。

 商品やメニューのネーミングを決めるということは、その商品やメニューの存在価値を考えるということです。またその存在価値は、お店や会社そのものの価値を考えるということと同期します。1度、見直す切っ掛けなればと思います。(存在価値の見つけ方や決め方の方法はこちらをクリックしていただければ御覧になれます)

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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