御店・商品・サービスの顧客価値(存在価値)の構築とコンセプトの設定手順や方法

 御店のストアコンセプト、商品やサービスの商品コンセプト、サービスコンセプトは、顧客へのマーケティングを行う際の、全ての土台、骨組みとも言えます。ここでは、どのように、そのコンセプトを決めていけば良いのかについて、「顧客にとっての顧客価値(存在価値)とは何なのか」を念頭にしつつ、説明していきます。

 なお、後ほど説明しますが、この顧客価値と各コンセプトは明確に区別する必要がありません。誤解を恐れずに示すなら、「コンセプト≒顧客価値」と理解していただいても良いでしょう。

1.ストアコンセプトや商品コンセプトとは

 ストアコンセプトとは、そのお店が「消費者に提供できる価値を明確にした上で、その価値が伝わるよう、言葉で表現したもの」です。屋号、キャッチコピー等で表現することもあります。

 商品コンセプトは、その商品が「消費者に提供できる価値を明確にした上で、その価値が伝わるよう、言葉で表現したもの」です。商品名(メニュー名)等で表現することもあります。サービスコンセプトというものもありますが、これは商品コンセプトと同様に考えてもらって結構です。例えば、支援先の珈琲専門店を開業するにあたって、次のようなストアコンセプトを考えました。

▶ストアコンセプトの事例:それぞれの大切な時間を、丁寧に過ごすことが出来る事(場)

2.ストアコンセプトと商品・サービスコンセプトの関係性

 ストアコンセプトと商品コンセプトとの関係は、ストアコンセプトが上位で、商品コンセプトが下位になります。つまり、ストアコンセプトを具現化するツールが商品であり、その商品はストアコンセプトを踏まえたもので無ければなりません。サービスも同様に考えます。以下に先ほどの珈琲専門店のコンセプトの下で展開されるメニューのコンセプトの事例を紹介します。

▶商品コンセプト(メニューコンセプト)の事例:○○行のバスの御乗換えの待ちの方へ、無駄なく大切に愉しんでいただける『時間を提供する』こと

 このコンセプトの実際のメニュー名は、「30分を愉しむ珈琲とプチスイーツのセット」、商品説明は「○○行のバスの御乗り換えの30分程の待ち時間を、愉しんでいただきたい、そのような想いのメニューです(以下、省略)」として、実際に展開しています。

3.コンセプトに顧客価値(存在価値)を明確に組み込むことが重要

 どのような事業(ビジネス)にも、どのような商品やサービスにも言えることなのですが、継続的に売れ続けるためには、そもそも「消費者にとっての存在する価値(顧客価値)」が明確でないと、それは叶いません。また、その価値は一過性のものでは事業として成立しません。

 ましてや、うちの商品は「ここが他所と違う」といったマーケティング活動は、独り善がりな側面があり、事業者としては、差別化しているつもりでも、消費者にとっては、何ら無意味な差別化であったりすることが多いのです。

 そこで、重要になるのが、この顧客価値(存在価値)を明確にするという過程です。今回はあらためて、この価値が何なのかについて、説明を深めていきたいと思います。なお、先ほどの珈琲専門店の事例では、顧客にとって「待ち時間が、愉しめる」といった価値が提供されています。あくまで顧客の悩みを改善する提案なので、顧客にとっては、意味のある差別化になっているのです。

4.顧客価値とは

 では、顧客価値とは何でしょうか。それは「御店が存在する意味や意義」「商品やサービスが存在する意味や意義」です。

 少し極端に説明すると、商品やサービス、その事業が、「消費者にとって無くてはならないこと」「消費者にとって、無くなったら困ること」と言えます。さて、その顧客価値を検討する際、常々、忘れてはいけないことが、事業者が独り善がりにならないこと。そこで、事業者目線消費者目線で考えることが重要だと、当事務所では常々、説明しています。まとめると以下のようになります。

5.顧客価値の切り口(交換価値、使用価値、文脈価値)

 顧客価値は、さらに大きく3つの切り口、つまり交換価値、使用価値、文脈価値、で整理できます。具体的には下図のようになり、サービス・ドミナン ト・ロジック(Service-Dominant Logic、 以下S・D ロジック)(Vargo and Lusch 2004)、グッズ・ ドミナント・ロジック(Goods-Dominant Logic、以下G・D ロジック)という視点での解釈が必要になります。

西山・藤川(2016)、藤川(2017)を参考に作成

 上記の図に登場する言葉について、以下に、それぞれ説明します。

▶グッズ・ ドミナント・ロジック(G・D ロジック)

 価値を生み出すの は企業であり、モノとしての製品に埋め込まれた価値が、企業から顧客へと一方向的に提供されるという考えです。これは、小規模・中小企業の多くの飲食店や食料品製造業等の方々が展開するマーケティングの考えになります。この考えにおいては、購買時にモノが貨幣と交換される際の交換価値(value-in-exchange)を重視する傾向があります。

▶サービス・ドミナン ト・ロジック(G・D ロジック)

 価値を生み出すのは企業と顧客の双方であり、様々な顧客接点や相互作用を通して、双方向的な形で価値は共創されるという考えです。この考えにおいては、購買の前後の様々な文脈の中で、企業と顧客の共創によって実現される「使用価値」(value-in-use)ないし 「文脈価値」(value-in-context) を重視する点に特徴があります。近年、業績が良い飲食店や食料品製造業等のマーケティング活動で重視される傾向が強まっています。

▶交換価値とは

 顧客が抱える課題を、解決する代わりに貨幣を取得することになります。その貨幣価値に見合った価値を、商品やサービスに実装することで実現します。

▶使用価値とは

 顧客が抱える課題の中で、そのモノやサービスを使用することで充足できる場合に、その価値が認められます。

▶文脈価値とは

 商品、サービスがもたらす知識・スキルの消費プロセスにおいて、もたらすであろうベネフィットの中から、消費者が認識した時点で実感する価値です。それは、コンテクスト(背景、状況、場面)によって、その価値を気付くこともあるし、気づかないこともあるという考えです。つまり、顧客が置かれている状況次第なのです。

 例えば、漁港の近くの食堂で、鮮度の良い刺身定食を食べる場面では、刺身定食は、とても美味しく満足する状況でしょう。しかしながら、牧場に併設のカフェレストランで、鮮度の良い刺身定食を食べる場面では、漁港の近くの食堂で食べる時より、美味しく満足する程度は低いでしょう。このように、置かれている背景、状況、場面によって、実感する価値は変化します。

 さて、なかなか難しい概念を説明しましたが、要するに、商品やサービスを売って終わり(G・Dロジック)という時代は終わったということです。これからは、顧客の暮らしや生活に寄り添う考え、価値共創が重要なのです。企業と顧客が協力して、新たな価値を創り出すことを価値共創といいます。価値共創では、顧客の意見やニーズを取り入れて共に価値を生み出すことを重視しているのです。念のため、S・DロジックとG・Dロジックの相違を下表にまとめておきますね。

村松・井上(2010)を参考に作成

6.5つの顧客価値を総合的に考える 

 さて、価値を顧客と作り上げていくといっても、何から始めれば良いか、わからないというのが現場での支援での実情です。そこで、おススメしたいのが、以下の5つの価値が、皆さんの事業、商品やサービス、に実装できるかがポイントになります。

①機能的価値:商品やサービスの機能や品質面で、顧客の抱える課題に貢献できる価値です。

②感性的価値:消費者の感性に訴えかけ、感動や共感、気持の高揚といった感情を促していく価値です。

③情緒的価値:商品やサービスを利用した際に、顧客が感じる優越的な気持ちや、幸福を感じるような感情を、促していく価値です。

④経験的価値:商品やサービスを購入した際に、実感する体験や経験に、満足を促してく感覚的な価値です。

⑤自己表現的価値:商品やサービスを利用することで、自分のアイデンティティや、嗜好、選好、価値観等を表現できる価値です。

 以下に、これら5つの顧客価値の事例を紹介しておきますね。

7.顧客価値の具体的な検討の方法と決め方

 先に、顧客価値(存在価値)をどういったものにしていくかが決まったという前提で(顧客価値の検討の仕方は、次章の8以降で説明)、実際に、その内容を顧客価値に作り上げるコツを紹介します。下図のように考えると良いでしょう。原則は、「顧客ニーズ+ウオンツ」、消費者目線においては「顧客ニーズのみ」「ウオンツのみ」でOKということになります。

 上記の事例では、「安心して食べられる」という部分が顧客ニーズ、「子供の焼菓子」の部分が、ウオンツです。そして安心して食べられるというものは機能的価値と言えるでしょう。また「車内の国道101号線でラーメンなら・・」は経験的価値と言えるでしょうか。

8.顧客価値の検討の仕方

 顧客価値(存在価値)の検討は、大きく3つのステップで可能で、概ね下表のように考えると良いです。

 STEP①が特定存在価値(顧客価値)の決定、STEP②が一般的存在価値(顧客価値)の決定、STEP③が決定した存在価値(顧客価値)の需要開拓方法の検討、となります。

 STEP①と②を起案する際、独り善がりな(事業者目線のみ)価値付けにならないように、STEP③を常々、念頭に、STEP①と②を起案していく必要があります。このステップ①を検討する際に、先ほどの5つの顧客価値の切り口を念頭に、整理していくこととなります。

.Googleキーワードプランナーから顧客価値(コンセプト)を決めた事例

 支援先のマフィン専門店では、Googleキーワードプランナーを使って、検索数の多いビッグワードを抽出しました。その上で、そのワードを実際に検索し、どのような記事がインターネットの上位表示に多いのか、どのようなニーズがあるのかを詮索したのです。マフイン周辺の検索ワードには、乳腺炎の罹患者や糖質を制限したい人がレシピを欲していること、あるいは、そのような商品を探していることがわかりました。

罹患者や制限食の方に定着させたい顧客価値(自店)
・唯一の乳腺炎・糖質制限者向けマフィン

罹患者や制限食の方に認識されたい顧客価値(消費者)
・乳腺炎・糖質制限者も楽しめるマフィンは同店

 支援先の飲食店では、自店への来店時の検索動向を調べました。結果、「所在する地域名 ラーメン」という検索ワードが一定量、調べられていることに着眼しました。その上で、店頭を通過する通行車のニーズに叶うよう、ラーメン メニューを根本的に見直しました。

ドライバーに対し新たに目指す顧客価値(自店)
・市内の国道101号線で1番ラーメンメニュー充実

ドライバーに認識されたい顧客価値(消費者)
・市内の国道101号線でラーメンなら同店

10.口コミサイトの批評から顧客価値(コンセプト)を決めた事例

 商品や御店に対しての悪口や批評は、見方を変えれば、消費者からの期待や要望ととれます。つまり、その期待や要望の中に、商品や御店の「お客様にとって無くてはならない存在」のヒントを得ることができます。支援先の食品メーカーでは、その悪口から商品コンセプトの見直しの改善点のヒントを得ることができました。

 そこで、悪口を整理して、どのあたりを改善していけば良いかを下図のように整理しました。

 結果、子供向けの焼菓子では、甘さを控えめにすること、サプリや健康視点を抑制して欲しいという顧客ニーズ(要望や期待)があることを見出し、次のように顧客価値(コンセプト)を整理したのです。

子を持つ保護者の方に定着させたい顧客価値(自店)
・国内で1番甘さ抑制し健康配慮の子供向け焼菓子

子を持つ保護者の方に認識されたい顧客価値(消費者)
・安心して常用させれる子供の焼き菓子は同社

11.自店の1次データを分析しストアコンセプトを決めた事例

 支援先の食品スーパーでは、売行きや販売点数の多い商品に着眼し、多用な視点でクロス分析を進めました。また商品群毎に相関分析を行うことで、交絡因子を見つけることが叶いました。

 健康に配慮した加工食品と量目の少ない刺身の販売量には、強い相関関係があるのですが、因果関係がありません。そこで見つけた交絡因子が、単身の高齢者の存在だったのです。

市内の方々に定着させたい顧客価値(自店)
・単身高齢者が買い回り易い市内№1の品揃え

市内の方々に認識されたい顧客価値(消費者)
・市内で単身の高齢者に親切なお店は同店

12.最後に

 いかがでしょうか。全てのビジネスの土台は、顧客価値(存在価値)を見つけ出すことです。それをストアコンセプトや商品コンセプトとして明確にすることで、事業や商品、サービスに触れた顧客にとっての重要性の強弱が決まってきます。

 ここさえ決まれば、その後に続く集客策や販促策は、ぶれることはありません。ぜひ、皆さんの事業でも、1度見つめ直してみてはいかがでしょうか。

 本記事の作成には、下記の受賞論文の他、次のような論文等を参考にしています。

Vargo and Lusch(2004)、Vargo and Lusch(2008)、Vargo and Akaka(2009)、Lusch,Vargo and Wessels(2008)、Chandler and Vargo(2011)

==日刊工業新聞社賞 受賞論文==

 存在価値の見つけ方の参考に御利用ください。

初稿:2021年11月14日

加筆修正:2024年2月3日 、2025年2月24日、2025年2月26日

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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