飲食・食品事業者の顧客ニーズの把握の方法と手順(潜在ニーズと顕在ニーズ)

食品メーカー(食料品製造業)、食品の製造小売り(和菓子店、洋菓子店、味噌屋、醤油屋)、食品の小売業(八百屋、鮮魚店等)、飲食業の方々が、自社の商品やサービス、メニューの「顧客ニーズ」を知りたいと思う場面は多々あります。例えば、新商品開発や新メニュー開発の場面で、種々の集客策や販促策を起案する場面等です。どのような商品にしょうか、どのようなメニューにしようか、どのような集客をしようか、どのような販促策にしようか、といった場面です。その際、必ずといって念頭に置いて進めなければならないのが、顧客ニーズと言われるものです。

目次 初稿:2020年2月(最終加筆修正:2023年7月16日)

1 顧客ニーズとは
2 顕在化ニーズとは
3 潜在化ニーズとは
4 顕在化したニーズの弱点
5 顕在化したニーズを確認し潜在化したニーズを確認する方法
 1) 会話や特定の質問でニーズを知る
 2)SNSの投稿内容からニーズを探る
 3)オーガニック検索傾向からニーズを探る
 4)Googleマップ(Googleビジネスプロフィール)からニーズを探る
 5)種々の口コミサイトへの改善要望をニーズのヒントにする
6 潜在化ニーズを見つけた飲食店の事例を紹介

顧客ニーズとは

顧客が何かを欲しいと思った際の背景にある「理由」や「動機」と言えます。あるいは、日々の暮らしの中で実感している「不満を解消したいとする欲求」や「充足したいとする欲求(つまり欠乏の充足)」「改善してほしいという欲求」と、説明できるでしょう。

この顧客ニーズは、様々な切り口で分類できるのですが、私は、主に以下の6つの切り口で検討することをおススメしています。具体的には、顕在化ニーズ・潜在化ニーズ、あるいは身体的ニーズ・心理的ニーズ、あるいは充足されたニーズ・未充足のニーズとなります。2章以降は、顕在化ニーズと潜在化ニーズについて深掘りしますので、ここでは、身体的ニーズ・心理的ニーズ、あるいは充足されたニーズ・未充足のニーズの切り口を説明します。

身体的ニーズとは、その名の通り、「身体を通じて実感する欠乏状態を充足したいとする欲求」です。例えば、寒い季節、暖かい場所に身を置きたい、温かい食事をしたい、といったものが挙げられます。

心理的ニーズとは、その名の通り、心理的な背景から生まれるニーズを指し、「感情(気持ち)を通じて欠乏状態を充足したいとする欲求」です。例えば、「かわいいデザインのものだと気持ちがあがる」「レトロなデザインの方が好み」といった感覚です。

なお、充足ニーズと未充足ニーズについては、下表に示しますが、充足ニーズは、市場に「そのニーズを解決する商品やサービスがある」、未充足ニーズは「そのニーズを解決する商品やサービスが市場にない」といった状態を指します。

2 顕在化ニーズとは

顧客自身が、「何を不満に思い、解消して欲しいのか」「何を充足して欲しいのか」「何を改善して欲しいのか」が明確にわかっていて、それを要望として、説明できることを指します。

例えば、支援先の飲食店で、1年間、お客様の声をメモ入れして整理していくと、要望の多い順に、下表のように整理できました。

御覧いただくと、理解できると思いますが、いずれも顧客は、「何を不満に思い、解消して欲しいのか」「何を充足して欲しいのか」「何を改善して欲しいのか」が明確です。

また、顧客ニーズは、1面性だけで決まるものではありません。一般的には、あれも、これも、それも、という具合に、わがままな側面があります。例えば下図は、マフィンを買い求めようとする顧客のニーズを多面的に捉えたものです。

このように『糖質を抑えたい」と思う気持ちがあっても、『糖質の質が良ければ少々の糖質があっても良い』という気持ちに引っ張られる要素があり、一方で『フルーツ系が良い・・』『栄養バランスが良くて・・』といった具合です。この場合下図のように表現でき、図にある等式が「複雑な心理を捉えた顧客ニーズ」と言えます。

潜在ニーズとは

顧客自身が、「何を不満に思い、解消して欲しいのか」「何を充足して欲しいのか」「何を改善して欲しいのか」が、明確にわからない状況では、要望として説明でき無い状態にあります。この「説明は出来ないけれど、何かしらの充足要求や改善要求、不満改善要求」を潜在化ニーズと言います。

とは言え、多くの方々は、その要求さえ気づかないものなので、潜伏しているという意味で、潜在といった言葉を使って表現しています。

なお、潜在ニーズは、そのニーズを把握できた段階で、顕在化したニーズとなるので、そのあたりの関係性にも留意しましょう。

顕在化したニーズの弱点

 顕在化したニーズを具現化した商品やサービスの展開は、既に競合も多く、新規客の獲得には苦戦することが想像できます(既述の充足ニーズの視点)。ですから、顕在化したニーズではなく、潜在化したニーズを見つけ、競合と類似した商品やサービスを避ける工夫が必要になります。

顕在化したニーズを確認し潜在化したニーズを確認する方法

1)会話や特定の質問でニーズを知る

下図を御覧ください。行動心理として、多くの研究結果がありますが、下図のような特定の質問や会話を、お客様(顧客)との間で実現できれば、顕在化したニーズだけでなく、潜在化したニーズを知ることが可能です。

2)SNSの投稿内容からニーズを探る

下図を御覧ください。SNSの投稿内容の行間を読み込む努力で、顕在化したニーズだけでなく、潜在化したニーズを知ることが可能です。

3)オーガニック検索傾向からニーズを探る

下図を御覧ください。Yahoo!の虫眼鏡や、Googleの検索時の候補ワードの表示内容の行間を読み込む努力で、顕在化したニーズだけでなく、潜在化したニーズを知ることが可能です。なお、検索量がどのくらいあるのだろうかと量を知りたい場合は、Googleキーワードプランナー等のツールを活用するにようにします。

4)Googleマップ(Googleビジネスプロフィール)からニーズを探る

下図を御覧ください。消費者はGoogleマップを活用し、目的の場所や御店を探すことは、一般的になってきました。その視点を活かし、検索ワードの表示内容や口コミの内容の行間を読み込む努力で、顕在化したニーズだけでなく、潜在化したニーズを知ることが可能です。

5)種々の口コミサイトへの改善要望をニーズのヒントにする

下図を御覧ください。インターネットにある種々の口コミサイトに寄せられる批評や改善要望は、消費者の充足して欲しい欲求そのもののため、ニーズと言えます。その行間を探ることで、顕在化したニーズだけでなく、潜在化したニーズを知ることが可能です。

飲食店の場合は、スタッフに協力していただき、お客様の声に耳を傾けることで、上表のような「要望」を聞き出すことができます。アンケートも良いでしょう。食品製造業の場合は、取引先の食品スーパー等で、マネキン販売を行うなど、接点を持つことで、声を吸い上げることも可能です。

潜在化ニーズを見つけた飲食店の事例を紹介

潜在ニーズを発見することは、骨折りです。以下に支援先の飲食店が実施したアプローチの事例を見て行きましょう。顧客ニーズの把握は、様々なアプローチがありますので、あくまで一例として御覧ください。

この飲食店、来店顧客に、次のようなアンケートを実施しました。

こちらの質問4について、主成分分析、第2主成分分析を行った結果を、マップに視覚化したものが下図になります。

御覧いただくとわかる通り、その地域の飲食店を利用する顧客は、緑色、桜色、紫色等、とくに茶色の選好や嗜好が高いという顕在化したニーズが明確になりました。さて、このような結果を見ると、安易に「茶色」の食品や、店内装飾を強化し、指し色に桜色を使えば良いのでは無いかと決めて掛かり、品揃えを改善しようとすることでしょう。

この結果を見た、A店や、B店などは、皆、同じ動きに走るので、結果、競争や差別化は同質的なものになってしまいます。そうですね。先ほど紹介した「顕在ニーズの弱点」の視点です。

このアンケートは、その地域の飲食店を利用されている方の回答結果になりますから、仮に「A店」を利用されている方が、同様な品揃えの強化に動いた「B店」に、わざわざ行く動機があるでしょうか。

ですから、顕在化したニーズに留まらず、さらに深掘りして潜在化したニーズを確認し、品揃えを検討していくこととなります。この事例の場合は、下表のような「色の背景にある消費者の心理的ニーズ」を参考に、潜在化したニーズを探ることとなりました。

例えば、茶色。色の心理学では、高級感がありそうなイメージとあります。

つまり、茶色の選好が強いというものを表層的に捉えるのではなく、「高級感」と捉えれば、その地域の飲食店を利用する方々は、「潜在的に高級感のある食事や御店を望んでいる」と解釈できます。

以上のように、表層的な背景を「なぜ?」と疑問に思い、その背景を詮索、分析することで、潜在的なニーズを見つけ出すことが可能になります。

高級感を意識した品揃えや御店創りは、千差万別の取組が期待できます。仮に、A店とB店が同じように「高級感」を意識した店創りを志向したとしても、まったく状態の異なる御店に仕上がっていくことでしょう。

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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