—施設の面会というお話がありましたが

食や農にこだわるようになった理由はいくつかありますが、原点は子どもの頃の食にまつわる体験です。私はじつは、家庭の事情で 5歳から高校 3年生まで、大阪市内の児童養護施設で育ちました。

施設内にはホームが15、6ほどあって、1ホームに10人から20人ぐらいの子どもがいました。全部で300人ぐらいいる、キリスト教系のかなり大きな施設です。そこでは、決まった時間に献立どおりにご飯が出ました。おやつはたまにある程度。これが、なぜなのかよくわからないけど、本当においしくないんです。栄養士さんと調理師さんがいてちゃんと作ってはいるんですけど、黙々と大量調理しているからか、とにかく味気がなくてまずい。中学生になってお弁当を詰めてもらうようになっても、ほとんど残していました。

—ごはんがおいしくないというのは、つらいですね。当然、好きなお菓子を買うようなお金もないですよね。

一応、小学生はおこづかいが月100円っていうのが決まっているですけど、先生が施設を出たときのためにって口座に積み立てしていて出してくれないんです。だから、お菓子はもちろん、買いたいものを買うことはできませんでした。マクドナルドを初めて食べたのは大学生になってからです。何がいいのか悪いのかわかりませんけどね。食っていう部分では、ある意味で真面目な食べ物しか食べていなかったんですよね。

施設ですと、誕生日ケーキやクリスマスケーキもありません。だから、友だちが羨ましかったです。それに、施設の子ってやっぱりいじめられていて、誕生日会なんかも呼んでもらえないんですね。みんなでやったっていう話を次の日に聞いて、へこむわけです。ゲームの話なんかにもついていけない。私はまぁうまく乗り越えた方だと思いますが、子どもによってはかなりきつかったと思います。

—子ども時代の食の体験は、とても苦いものだったということですね。それなのになぜ、食の仕事に興味をもつようになったのでしょうか?

そこの施設には、関西の大手製パンメーカー「神戸屋」が、朝食用の食パンを運んでいました。その配達にくる兄ちゃんと仲良くなったんですね。で、その人が施設の先生にバレないようにトラックの荷台にこっそり入れてくれて、賞味期限切れ間近だったり、営業用のサンプルかなにかで余っている菓子パンをくれるんです。それがもう、めちゃくちゃおいしくて! その施設では絶対にありつけない食べ物だったから、こんなにうまい食べ物があるのかと衝撃的でした。その衝撃から、食べ物に対してすごく興味をもったんです。それが、小学校低学年ぐらいのときです。

だから最初に憧れたのは、単純に、神戸屋で働くこと。勤めたら、菓子パンがいくらでも食べられるんじゃないかと思って(笑)。それが食の仕事に興味をもった最初の動機でした。

—食の仕事に就くために、大学に進学したんですか?

じつは私は、その施設で初めて大学に進学した卒業生でした。正直、施設を出た子どもたちがやる仕事って限られているんです。大げさじゃなく、パチンコ屋か新聞配達か水商売か、あとはヤクザかっていうぐらい。でも当時の施設の先生が「勉強したほうがいい」「進学したほうがいい」って言ってくれてね。進学したほうが職業も選択できるし、一生使われる側の人生で終わることもないからって。施設自体が荒れていたし、ホームの中にはギャンギャン泣いてる赤ん坊から高校3年生までいて、正直、勉強できる雰囲気はまったくないんです。でもそう言われて、中2ぐらいから目覚めて、頑張って勉強するようになりました。それでなんとか、偏差値52ぐらいの高校に行けて、関西大学にも行けたんです。

大学に行くという目標が先で、最初から食について学ぼうと思っていたわけではありませんでした。でも製パン業界で働きたいという夢は変わっていなかったので、結果的に発酵について学ぶ学科に進学しました。学費は返済義務のない奨学金に受かったのでそれで半分、残りは高校時代にアルバイトで貯めたお金と通常の奨学金で賄いました。

—神戸屋のお兄さんとの出会いと進学を決意したことで、人生の目標が定まったんですね。それがなかったら、環境が良くない中でそこまで頑張れなかったかもしれませんね。

そのときの神戸屋の兄ちゃんとは、今でも会っていますよ。 最初は就職活動が始まってOB訪問したとき。第一志望が神戸屋だったから、施設の栄養士さんに懇願して会わせてもらいました。「神戸屋に行きたいって俺に言われても無理やけど!」って言いながらも、人事部に連れて行ってくれたりね。結局、神戸屋は二次試験で落ちてしまいましたけど、第二志望だった山崎製パンには受かりました。そのときも、山崎製パンに受かったっていう連絡をしたらお酒をおごってくれたりね。社会人になって東京に出てきたあとも、ときどき飲んでいます。

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