食品メーカーの営業職は「小売店」で一体何をするのか?
その疑問にすべて応えます。
【この記事の要約】
・小売店営業の基本: バックヤードから入店し、必ず現場の売場担当者へ挨拶と情報提供を行う。
・店舗での4大業務: ①フェイス管理(商品の前出し)、②POPの設置、③商品補充・発注支援、④本部意向や他店事例の共有。
・POP設置の注意点: 勝手な設置はNG。必ず事前に本部の許可を得たものを掲示する。
・本部商談のコツ: 見積書や規格書の持参は必須。「雑談9割」でバイヤーとの関係性を構築し、卸価格は事前に「問屋(卸)」と合意しておくこと。

はじめに:食品メーカーの営業職は「小売店」で一体何をするのか?
食品メーカーや菓子メーカー、飲料メーカーに新入社員として入社された方、あるいは新たに営業部へ配属された方の中には、ネットで「食品メーカー 営業 仕事内容」「食品 ルート営業 何する」と検索して、日々の業務に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
「食品営業はきつい」「スーパーを回ってただ頭を下げるだけ?」といったネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、それは大きな誤解です。
自社の商品を消費者に届ける最前線である「小売店(食品スーパーやドラッグストアなど)」での営業活動は、商品の売れ行きを直接コントロールし、会社の売上を底上げする非常に重要な役割を担っています。正しい「仕事のやり方」と「コツ」さえ身につければ、店舗の担当者から頼りにされ、大きなやりがいを感じられるはずです。
本記事では、食品メーカーの営業マンが担当する小売店での日々の仕事内容(店舗巡回)から、本部バイヤーとの商談の進め方まで、現場ですぐに使える具体的な実践ノウハウを丁寧に解説します。
第1章 ルート営業の基本!小売店(食品スーパー・ドラッグストア・薬局)の「店回り」(店舗巡回)ルール
食品メーカーの営業の基礎となるのが、担当する小売店を定期的に訪問する「店回り(店舗巡回)」と呼ばれるルート営業です。まずは、どこに、どのように訪問するのかという基本ルールを押さえましょう。
1)営業先となる小売店の種類(※コンビニは巡回不可・スーパー等もそれぞれで方針が異なる)
あなたが担当する主な小売店は、食品スーパー、ドラッグストア、高速道路の売店、道の駅などが中心となります。大きな売上が見込める重要な取引先です。
ここで注意していただきたいのが「コンビニエンスストア」です。コンビニは本部が一括で売場を厳格に管理しているため、原則として各店舗への巡回許可は下りません。したがって、「店回り」の対象からは外れると考えてください。
その他の小売店については、後述する「本部商談」の際に、あらかじめ巡回(店回り)の許可を取っておき、対象となる各店舗(例:「〇〇スーパー △△店」など)を順次訪問していきます。
1)入店時の絶対ルール:バックヤードからの入店と入店証
店回りでお店に到着したら、お客様と同じ正面入口から手ぶらで入っていくのはNGです。営業マンは必ず「バックヤード(従業員専用口)」から入店してください。
入店時には、守衛室や事務所の受付で「社名・氏名・連絡先・入店時間」を記帳します。すると、ほとんどのお店で名刺ホルダーのような「入店証」を渡されます。これを首から下げるなど、誰から見てもメーカーの営業マンであることがわかるように視覚的に掲示してから、売場へと向かいます。
2)店回りの優先順位:まずは「基幹店」から攻略する
全国展開しているような大手流通チェーン(例:イトーヨーカ堂やイオンなど)を担当した場合、全ての店舗を一人で回り切ることは現実的に不可能です。
そこで、「基幹店(売上の規模が大きく、影響力のある主要店舗)」を優先して回るようにスケジュールを組みましょう。どの店舗が基幹店なのかは、本部のバイヤーに直接聞くか、すでに自社商品が導入されている場合は「売上データが大きいお店」を優先ターゲットと判断します。
第2章 現場で信頼を勝ち取る!担当店舗での「4つの具体的な仕事内容」
入店手続きを済ませて売場に出たら、勝手に作業を始めてはいけません。必ずご自身が扱う商品の「売場担当者(菓子担当、日配担当など)」を探して挨拶をし、コミュニケーションを取ってから以下の作業に入ります。勝手に行動すると、現場の担当者からお叱りを受けることになります。
1)視認性を高める「フェイス管理(前出し)」
店回りで行う最も基本的な作業が「フェイス管理」です。フェイスとは、商品が陳列されている「最前面(お客様から見える顔の部分)」を指します。

お客様が商品を購入していくと、商品が棚の奥に引っ込んでしまい、通路を歩くお客様の視界に入りづらくなります(視認性の低下)。これを見つけたら、自社の商品を棚の最前面に引き出し、きれいに並べ直す作業(前出し)を行います。これだけで売上は確実に変化します。
㊟もちろん時間に余裕があれば、自社の所属するカテゴリーの売場のフェイスを、全て揃えてあげることも、現場との信頼関係構築には、重要です。
2)売上を後押しする「POP作成と設置」の注意点
新商品が導入された時など、お客様に商品の特徴(どんな風味か、どんなメリットがあるか)を伝えるために「POP(販促用ポップ)」を設置します。
ただし、POPは必ず「事前に本部で許可を得たもの」だけを掲示してください。
現場の判断で勝手にPOPを取り付けると、店舗の担当者から本部にクレームが入り、「あそこのメーカーはルールを守らない」として二度と巡回許可がもらえなくなるリスクがあります。
3)販売ロスを防ぐ「商品補充と発注支援」
売場を確認し、自社の商品がよく売れて棚がスカスカになっている場合は、販売機会のロス(品切れによる売り逃し)を防ぐチャンスです。
売場担当者に許可を取った上で、バックヤードの在庫置場から自社商品を探し出し、自ら棚に補充(品出し)します。もしバックヤードにも在庫が無い場合は、担当者にその旨を伝え、できるだけ早く追加発注をしてもらうようにお願いします。

何度も訪問して担当者と仲良くなると、「発注端末を貸すから、必要な分を入力しておいてよ」と任されるレベルになることもあります。納品のタイミングに合わせて品出しを手伝うなど、「担当者の負担を軽減するアプローチ」を心がけることで、自社商品を特別扱いしてもらえる関係性が築けます。
4)担当者が喜ぶ「本部意向や他店情報のフィードバック」
現場の売場担当者は、日々の品出しや業務に追われており、本部の決定事項や他店の動向を十分に把握できていないことがよくあります。そこで営業マンは、「有益な情報を持ってきてくれる存在」になりましょう。
・本部の意向を伝える:「来週、本部商談で決定した特売があり、この商品が週末に30ケース納品されます。エンド(通路横の目立つ棚)のスペース確保をお願いできませんか?」と事前に心の準備をお願いします。大量の商品がいきなり送り込まれると担当者はウンザリするため、事前の丁寧なフォローと「お礼」が心象を良くします。
・他店の成功事例を伝える:「〇〇店では、この商品をこんな風に陳列したら凄く売れましたよ」といった、他店の成功事例や競合店の情報を(話せる範囲で)提供します。
こうした情報提供を繰り返すことで、「この営業マンは役に立つ!」と高く評価され、自社商品を目立つ場所に置いてくれるなどの優遇を受けられるようになります。
第3章 会社の売上を左右する「本部バイヤーとの商談」のコツ
担当する小売店(食品スーパー、ドラッグストアなど)の「本部」を担当することになったら、いよいよ本部バイヤーとの商談です。大手の食品メーカーであればバイヤーも好意的に時間を取ってくれますが、中小や小規模な事業者の場合、商談の機会を得るだけでも一苦労です。だからこそ、限られた商談のチャンスを最大限に活かす必要があります。
1)本部商談で議題に挙げるべき4つの内容

見事アポイントが取れたら、限られた時間の中で以下の内容を議題として提案します。
・既存商品の定番棚への品揃え依頼:すでに実績のある商品を、全店舗の基本の棚(定番)に置いてもらうよう交渉します。
・新商品の導入依頼:季節の新商品などを売り込みます。
・広告宣伝の取り組みの共有:交通広告やテレビCMなど、自社がどのようなプロモーションを予定しているかを伝え、バイヤーに「これは売れそうだ」と期待させます。
・店舗への巡回(店回り)と個別受注の許可:第1章で触れた通り、「各店舗を回って陳列のお手伝いや発注支援をさせてください」という許可をここで確実に取り付けます。
・商談成功の法則は「雑談9割・本題1割」です。バイヤーは毎日、何十人もの営業マンから「この商品をお願いします」と売り込まれており、正直なところ飽き飽きしています。そこで商談を有利に進める最大のコツは、「雑談9割・本題1割」のバランスを厳守することです。
いきなり見積書を出して真面目に商品説明をするのではなく、バイヤーの抱える悩みに耳を傾けたり、他店の有益な情報を提供したりして、「この担当者は自分にとって有益で居心地が良い」と印象付けることに時間を割いてください。
2)トラブル厳禁!商談前に「問屋(卸)」と卸価格をすり合わせる
ここで、食品メーカーの営業マンが絶対に忘れてはいけないルールがあります。それは、「小売店に商品を卸し、卸価格を決定する権限は『問屋(卸売業者)』にある」ということです。
商流は「メーカー ⇒ 問屋 ⇒ 小売店」です。したがって、本部商談の前に、必ず自社と取引のある帳合(ちょうあい)の問屋さんと、「どの商品を、いくらの卸値でバイヤーに提案してよいか」を事前に入念に打ち合わせておきましょう。
問屋の利益を無視して、メーカーの営業マンが勝手に「〇〇円で卸します」と約束してしまうと、問屋さんから激怒され、取引が停止してしまう恐れがあります。
⇒問屋さんとの商談や仕事の仕方は、こちらの記事「【食品メーカー営業必見】問屋(卸売)攻略のコツ!ルート営業の仕事内容と同行営業で売上を作る方法」で詳しく解説しています。
3)商談時に必ず持参したい「5つの持ち物」
バイヤーとの商談をスムーズかつ有利に進めるため、以下の持ち物を忘れずに準備しましょう。
・見積書:小売業の本部指定のフォーマット、無い場合は自社のもの(※事前に問屋と合意した価格を記載)。
・商品規格書:原材料やアレルギー情報、賞味期限などが詳細に記載されたもの。
・商品カタログやパンフレット・チラシ:視覚的に商品の魅力を伝える資料。
⇒チラシやパンフレットは「飲食店・食品メーカー必見!集客と販促を成功に導くチラシ・フライヤーの作り方(作成方法)・デザイン・外注・相場の完全ガイド」の記事で詳しく解説しています。
・商談書・プロモーション計画書:なぜこの商品が売れるのか、どう宣伝するのかをまとめた提案書。
・1次データや2次データの資料:他店での販売実績(一次データ)や、市場のトレンドデータ(二次データ)など、提案の根拠となる客観的な資料。
第4章 【Q&A】食品メーカーのルート営業に関するよくある質問
食品メーカーの営業職を目指す方や、現場で悩む営業マンが抱える「仕事内容」や「働き方」に関するよくある疑問にお答えします。
Q. 食品メーカーの営業職の「1日の流れ」はどのようなイメージですか?
A. 食品メーカーの営業の1日の流れは、午前中に問屋(卸)へ訪問して営業マンへ挨拶や新商品の案内を行い、日中は小売店(スーパーなど)の「店回り(店舗巡回)」をしてフェイス管理や品出しを実施します 。夕方に帰社して、発注の手配や翌日の商談に向けた見積書・規格書の作成を行う、というのが一般的なルート営業のスケジュールです。
Q. ネットで「食品メーカーの営業はきつい」「やめとけ」という声を見ますが、本当ですか?
A. 確かに、店舗での品出しなどで体力を使い、時には厳しい要求を受けることもあるため、「営業職はきつい」「やめとけ」と感じる瞬間があるのは事実です 。しかし、本記事で紹介したように、現場の担当者との信頼関係を築き、自らの工夫で商品が陳列され、消費者の手に渡る瞬間を直接見ることができるのは、他の職種にはない大きな「やりがい」と達成感があります。
Q. 女性でも食品メーカーのルート営業で活躍できますか?また、服装はどうすべきですか?
A. もちろん、大いに活躍できます。食品や日用品の売り場は、生活者目線や細やかな気配りが活きる現場であり、女性ならではの視点がバイヤーや売場担当者から高く評価される傾向にあります。服装については、バックヤードを通ったり品出し作業を行ったりするため、動きやすいスーツ(パンツスーツなど)や、会社によっては歩きやすいスニーカーでの通勤・営業が推奨されるケースが増えています。
Q. 異業種からの転職を考えていますが、食品営業は未経験でも可能ですか?
A. 未経験からでも十分に挑戦可能です 。食品営業で最も重要なのは、自社商品を一方的に売り込むトークスキルではなく、店舗の売場担当者やバイヤーの「悩み(人手不足や売上低迷など)」に耳を傾け、一緒に解決策を考えるコミュニケーション能力です。前職での顧客折衝やサポート経験があれば、志望動機として強力なアピールポイントになります。
Q. 店舗巡回(店回り)や商談に行く際の、必須の「持ち物」は何ですか?
A. 営業職の持ち物として、名刺やスケジュール帳はもちろんですが、商談用の「見積書」「商品規格書」「カタログ」は必須です 。また、店舗での作業(POPの取り付けやちょっとした清掃・整理)に備えて、ボールペンやカッター、セロハンテープ、ウェットティッシュなどをカバンに忍ばせておくと、現場で機転が利き、担当者から重宝されます。
初稿:2013年1月9日、加筆修正:2022年5月11日、2025年3月28日、2026年3月12日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
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近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













