小規模や中小企業の飲食店や食品メーカー(食料品製造業)の方々向けに、原価計算の方法、価格設定の方法を、手順を追って説明していきます。
これさえあれば、適切で納得性の高い値付け(価格設定)が可能です。

前提:なぜ、飲食店や食品メーカーにとって「価格設定」が命運を分けるのか?
「新しく開発したこのメニュー、いくらで売ろうか?」「この新商品は、儲かるのだろうか?」
この問いに対して、多くの経営者や商品開発担当者が「原価がこれくらいだから…」「近隣の競合店がこれくらいだから…」と、どこか受動的な決断を下してしまいがちです。しかし、断言します。価格設定(プライシング)は、事業の成否を分ける「最大の経営判断」です。
その理由はシンプルです。マーケティングの4P(製品・価格・流通・促進)の中で、唯一「収益」を生み出す要素は「価格」だけだからです。他の3つの要素はすべて「コスト(費用)」を生むものですが、価格だけが貴社の手元に残る現金を決定します。特に、小規模な飲食店や中小の食品メーカーにとって、価格設定のミスは命取りになります。
・安すぎれば: 売上が上がっても利益が残らず、スタッフは疲弊し、設備投資もままならない「ジリ貧」状態に陥ります。
・高すぎれば: どんなに良い商品であっても顧客に見向きもされず、在庫の山と廃棄ロスの壁に突き当たります。
昨今の食材費高騰やエネルギーコストの上昇は、かつてないスピードで貴社の利益を削り取っています。今、求められているのは「なんとなく」の据え置きではなく、「利益を最大化し、かつ顧客に選ばれ続ける戦略的な価格」を科学的に導き出す力なのです。
前提:「勘」に頼らない、原価・市場心理・ブランド価値の多角的な視点を持つ重要性
「うちは長年の経験(勘)でこの価格に決めている。お客様も納得してくれているはずだ。」
こうした経営者の直感は時に鋭いものですが、変化の激しい現代においては「勘」だけでは通用しない局面が増えています。なぜなら、顧客が「その商品にいくら払う価値があるか」という判断基準(バリュー感)は、SNSの普及やインフレの影響で常にアップデートされているからです。
価格設定を成功させるためには、「内側の論理(原価)」、「外側の論理(市場心理)」、そして「お店の存在価値(ブランドイメージ)」という多角的な視点からアプローチする戦略が不可欠です。
・原価からのアプローチ(ボトムアップ)
「会社が存続するために、最低限いくらで売らなければならないか?」を算出します。食材原価だけでなく、目に見えにくい加工費やオーバーヘッド(固定費)を正確に把握することで、赤字の防波堤を築きます。
・市場心理からのアプローチ(トップダウン)
「お客様はこの商品に対して、最大でいくらまでなら喜んで払ってくれるのか?」を分析します。PSM分析(価格感度分析)などの手法を用いることで、顧客が感じる「安すぎて不安」「高すぎて手が出ない」という心理的な境界線を可視化します。
・ブランド価値からのアプローチ(付加価値の転嫁)
「お店が持つ稼ぐ力(販売生産性)を基準に、どれだけの価格を上乗せできるか?」を算出します。独自のイメージや信頼感を、適正な販売価格へと反映させます。
この「自社が守りたい利益」と「顧客が払いたい価値」の交差点を見つけ出すことこそが、マーケティング担当者の真の仕事です。
本記事では、これらの視点の具体的なステップを、実務ですぐに使えるレベルまで落とし込んで解説していきます。「適正価格」の正体を知ることで、自信を持ってメニュー表を書き換え、誇りを持って商品を世に送り出すためのガイドラインとしてご活用ください。
第1章:【実務的】利益を残すための「原価計算」の手順と損益分岐点
商品やメニューの販売価格を決める上で、絶対に逃してはいけない最初のステップが「原価の正確な把握」です。ここでは、コストから価格を導き出す基本の手法について解説します。
1)原価管理には重要な2つの視点(価格設定基準と採算性)があります
飲食店で考えると理解しやすいので、飲食店を念頭に、ここでは説明します。
その1:メニューの価格を「どのような基準」で設定していますか。
その2:お店を開けていて、お客様が店内に居ようと居なかろうと、コストが掛かっていることは認識していますか。
飲食店が原価計算を大切にしなければならない理由は、以上の2つの視点を解釈し、その上で、採算が取れているかを、常にウオッチすることが出来るようになるためなのです。
その1は、飲食店の収入(売上)にかかわることですので、適切に値付け(価格設定)が出来ているかを問うています。1つ1つのメニュー(商品)が利益が出る価格になっていなければ、時間の経過とともに、商売は行き詰まることでしょう。
例えば先の画像(氷のお皿に盛り付けたお刺身)は、お皿の氷代、御魚を敷いているカラフルな紙材、御魚そのもの、わさび、飾りつけの人参、シソが目につきます。これらの1皿の合計が仮に200円と下刃足、その価格設定は200円を超えて入れば良いのでしょうか?
その2については、認識はしているものの、それが、どのくらいのコストが掛かっているのかを、即答できる経営者(店主)に出逢ったことが無いのが実情です。例えば電気代です。先ほどの画像(氷のお皿に盛り付けたお刺身)を、翌日の朝食に提供するメニューだとすれば、夜間の保存のために冷蔵庫で備えることになります。つまり、その電気代も、この画像のお刺身にも掛かってくるわけです。
実は、この「その2」が、とても重要です。お客様が店内に居ない時間のコストは、お客様に料理(メニュー)を提供するために「必要なコスト」であるとの認識が、甘いというのが実情でしょう。
お客様が居ない時間(オープン準備、オープン後、閉店後)は、お客様に料理(メニュー)を提供するための仕込みをしたり、清掃をしたり、といった具合に、結局のところ、お客様に適切な料理を提供するために必要な時間なのです。そうであるならば、このお客様が店内に居ない時間のコストも、提供する料理に含まれていなければならないということです。
2)飲食店の原価計算を簡易に行う方法
①原単価の算定
飲食店の原価計算は、次の問いに答えることが「できるか?」が鍵を握ります。
その3:お店を経営するのに「1分あたり、1秒あたり、1日あたり、1年あたり」何円のコストが掛かっていますか。
これは食品メーカー(食料品製造業)でも同じことです。前項の「その2」の目線です。
つまり、「1分あたり、1秒あたり、1日あたり、1年あたり」掛かるコストを上回る売上を挙げておかなければ、利益が出ていないということです。
計算の方法は、難しくありません。既に商売を数年続けている飲食店の場合は、直近期の確定申告書や決算書の中にある「全ての費用」を書き出し、「1分あたり、1秒あたり、1日あたり、1年あたり」で割り算してあげれば良いのです。
つまり、総コストを時間当たりで割り算(総コスト ÷ 時間)してあげれば良いということです。分母の時間は、時間、分、秒を使用できます。例えば、1日の稼働時間8時間、年間あたり稼働日を300日とする飲食店が、1分あたりで算出したい場合、次のように算出されます。
・分母の時間は?:300日×8時間×60分
1秒あたりの場合なら、以下のようになります。
・分母の時間は?:300日×8時間×60分×60秒
それでは、都内にある支援先の飲食店を事例に、説明していきましょう。年間の総コスト(費用)の合計は、6,014,273円でした。費目を洗い出し(説明を簡素化するために、広告宣伝費等を省略しています)、全てを合算したものです。これを下表のように、1分あたり(300日×8時間×60分)で解答するように、割り算しました。

ポイントは、食材の仕入費、調味料の仕入費といった料理(メニュー)に直接かかわる部分は、ここでは省いておくということです。食材の仕入費、調味料の仕入費は、後のメニューの価格設定で使います。
この表の見方は、1分あたり約42円のコストが、掛かっている(食材の仕入費、調味料の仕入費といった料理(メニュー)に直接かかわる部分は含まれていない)ということです。お客様が店内に居て、料理を提供している時間も、お客様が店内に居なくて、仕込みや清掃をしている時間も、常に1分あたり42円のコストが掛かっているということです。
なお、この1分あたり42円という数字を、「原単価」と言います。
この原単価は、お店が稼働していない65日分の総コストも、1分あたりに割り振られています。なぜなら、年間に掛かっている総コストを、300日(300日×8時間×60分)で割り算したからです。
②原単価を活用した商品やお料理(メニュー)の原価の算定
時間当たりの原価(原単価)がわかれば、メニュー毎の適切な原価を知ることができます。考え方は簡単です。以下の計算式で算出が可能です。
メニューの原価=原単価(時間当たり単価)× 調理時間 + 食材原価(調味料等含む)
原単価には、水光熱費、賃料など、すべて含まれていますから、この原単価を活用することで、メニュー毎に、掛かった費用を配分することができます。
先の支援先の事業者の場合、1分で42円かかっています。ランチタイムが100分で10食を提供するといった計画で商売するとすれば、4200円(42円×100分)÷ 10食 = 420円が、上記の式の原単価の部分になります。仮に20食を計画するのであれば、210円が原単価です。
ここまでを整理すると次のようになります。
・ランチタイム10食のメニューの原価 = 420円 + 食材原価
・ランチタイム20食のメニューの原価 = 210円 + 食材原価
3)損益分岐点を意識した価格設定
それでは、このランチタイム10食のメニューは、何円で販売しないと儲からないのでしょうか。お客さんから、この1食のお代金として「420円+食材原価」を超えていかないと、儲からないことに気づくと思います。
仮に食材原価を300円とした場合、1メニューの原価は「420円+300円」となりますので、720円が原価です。そうであるならば、720円を超えない価格設定は、赤字ということになります。つまり720円超で価格設定をすることが絶対条件です。
第2章:【一般論】利益を残すための「原価計算」の手順と損益分岐点:利益のカラクリを解き明かす「固定費」と「変動費」の違い
商品やメニューの価格設定を行う前に、経営者として絶対に押さえておかなければならないのが「コスト(費用)の性質」です。
先ほど説明したように、お店を開けていて、お客様が店内に居ようと居なかろうと、コストが掛かっていることはご認識の通りです。事業にかかるすべての費用は、大きく「変動費(へんどうひ)」と「固定費(こていひ)」の2つに分けることができます。これを正確に分類することが、正しい原価計算の第一歩となります。
1)売上に比例して増える「変動費」
変動費とは、商品が1つ売れるごとに、あるいはメニューの注文が1つ入るごとに「変動して発生する費用」のことです。
・飲食業の例: 肉、野菜、魚などの食材費(材料費)、テイクアウト用の容器代、おしぼり代など。
・食品メーカーの例: 原材料費、パッケージ(包装資材)代、製造工程で直接かかる外注加工費など。
・農業者の例:肥料代、パッケージ(包装資材)代など。
先ほどの計算例で挙げた「食材原価(300円)」は、まさにこの変動費にあたります。売上がゼロなら変動費もゼロですが、売れれば売れるほど、この費用は増えていきます。
2)売上に関係なく毎月かかる「固定費」
固定費とは、極端に言えば「お客様が1人も来なくても、1個も商品が売れなくても、毎月必ず発生してしまう費用」のことです。
・具体例: 店舗や工場の家賃(地代家賃)、社員やパートの基本給(人件費)、冷蔵庫や厨房機器のリース代、基本の水道光熱費、保険料など。
先ほどの例で計算した「420円(ランチタイム100分・1席あたりにかかる経費)」は、このお店の家賃や人件費などの「固定費」を、営業時間や席数(先ほどの計算は、営業時間)で細かく割り戻して算出したものです。
価格設定において多くの小規模事業者が陥りがちな罠が、「目に見えやすい変動費(食材費など)だけを原価として計算し、目に見えにくい固定費の回収を忘れてしまうこと」です。
3)赤字と黒字の境界線「損益分岐点売上」とは?
変動費と固定費の違いが分かると、経営の生命線である「損益分岐点(そんえきぶんきてん)」が見えてきます。

このグラフは、売上とコストの関係を視覚化したものです。小規模事業において、なぜ「固定費」の把握が重要なのかを一目で理解することができます。
・Fixed Cost(固定費): 売上に関わらず必ず発生する「家賃」や「人件費」などの土台となる費用です。
・Variable Cost(変動費): 食材費など、売上の増加(Units Sold)に合わせて増えていく費用です。
・Total Cost(総費用): 固定費と変動費を足した、事業にかかるすべてのコストです。
・Income(収益): 商品を販売して得られる売上高です。
・Break-even Point(損益分岐点): 収益と総費用が交差する点です。ここを超えると「LOSS(赤字)」から「PROFIT(利益)」へと転じます。
損益分岐点とは、「売上高」と「かかった総費用(固定費+変動費)」がぴったり一致して、利益も赤字も『ゼロ』になるポイントのことです。この境界線を越える売上(損益分岐点売上)を作って初めて、お店に利益(黒字)が残ります。
・赤字の状態: 図でLOSSと書いてある赤マスの部分です。売上で「変動費」はカバーできていますが、「固定費(家賃や人件費)」を払い切れていない状態です。
・損益分岐点(トントン): 図でBEPの箇所です。売上で「変動費」も「固定費」もすべて支払い終わった状態(利益はゼロ)です。
・黒字の状態: 図でPROFITと、くすんだブルーのマスの部分です。損益分岐点を超えた売上になります。ここから先は、売上から変動費を引いた金額(限界利益)が、そのままお店の純粋な利益として積み上がっていきます。
つまり、経営の第一目標は「いかに早く損益分岐点売上をクリアするか」に尽きます。
4)損益分岐点を意識した「絶対に赤字にならない価格設定」
では、この損益分岐点の考え方を、実際の「価格設定(値付け)」にどう活かせばよいのでしょうか。先ほどのランチメニューの例を思い出してください。
・1席・1回あたりの固定費負担分:420円
・1食あたりの変動費(食材費):300円
この場合、1食提供するのにかかる「本当の総原価」は720円です。もし、近隣のライバル店が安いからといって、このメニューを「680円」で販売したらどうなるでしょうか?
食材費の300円は払えますが、固定費の420円を完全にカバーできず、1食売るごとに「40円の赤字(家賃や人件費の持ち出し)」が確定してしまいます。売れば売るほど、お店の現金が減っていく最悪のサイクルです。
だからこそ、「最低でも720円(総費用)を超える価格に設定すること」が、赤字を回避するための絶対条件(下限価格)となります。
5)価格設定の基本ルール
販売価格 = 変動費(食材費) + 1商品あたりの固定費負担分 + 確保したい利益
例えば、1食あたり「200円の利益」をしっかり残したいのであれば、【300円(変動費)+ 420円(固定費)+ 200円(利益)= 920円】 これが、自社のコスト構造から導き出された「正しい販売価格(順算による価格)」となります。
小規模事業者や中小企業は、大手チェーン店のような「薄利多売(大量に売って固定費を回収するモデル)」の真似をしてはいけません。自社の「固定費」と「変動費」をしっかり把握し、損益分岐点を超えるための「適正な利益」を乗せた価格設定を行うことが、長く愛されるお店・会社を作るための絶対条件なのです。
第3章:日々・月次の採算管理の極意:販売計画で赤字は避けられる
先述したように、時間当たりの原単価を使用し、1食ずつの価格を設定すると、単品ごとの採算管理が可能になります。一般論の原価計算と異なり、採算管理を日常の運営に取り込めることが特長で、私の支援先でも重宝しています。なぜなら、販売計画と損益の関係が一致するからです。
㊟一般論の原価計算は、計画段階や、結果の検証には有効ですが、計画実行中の採算管理には使いづらいところがあります。その点、ここで示す方法は、日々、月次の管理が容易になります。
例えば、先ほどの画像の、お刺身のみを扱っているお店と仮定します。年間の販売目標点数を、143,197点と設定したとしましょう。年間の総コストは、先ほど同様に、6,014,273円でした。つまり、1点あたり42円の原単価になります。
1日あたりは、477点(143,197点÷300日)以上を販売していれば良い計算になります。では、100日後はどうでしょうか?。47,732点以上を販売していれば、採算が取れていることになりますね。
レジを閉めたときの販売点数が1日あたり、1ケ月あたりで確認できます。採算管理を日常、月次で取り入れる際に重宝できますので、皆さんのお店でもチャレンジしてくださいね。無論、季節性、相乗積など考慮することは山積みですが、まずは基本を、御案内しました。
⇒相乗積を使い新商品や仕入・品揃え・商品のラインとアイテム見直しや改善に活かす方法
第4章:【戦略】顧客心理から導き出す「売れる価格」の決め方(PSM分析:価格感度分析)
1)価格感度分析とは(PSM分析とは)
ある商品やサービスについて,価格に関する4つの質問を顧客等に投げかけることで、上限価格(最高価格)、妥協価格、理想価格、下限価格(最低品質保証価格)を導き出す分析手法を指します。
具体的には、次のような質問です。
≪質問:設問≫
Q1. ***は、いくらぐらいから「高い」と思いますか。
Q2. ***は、いくらぐらいから「安い」と思いますか。
Q3. ***は、いくらぐらいから「高すぎて買えない」と思いますか。
Q4. ***は、いくらぐらいから「安すぎて品質が疑わしい」と思いますか。
たった4つの質問で、価格に対する消費者の感度を分析することができるため、飲食店のメニューの価格の設定や、食品メーカーや農業者等の商品の値付けの場面で、広く利用されています。なおPSMとは、Price Sensitivity Measurement(価格感度測定)の略になります。
それでは、一旦、分析の前に知っておいてほしい用語を説明します。
①上限価格(最高価格)とは
「高すぎて買わない」のグラフと「安いと思う」のグラフが交わる価格ポイントを指します。この価格は、「これ以上高く値付けをすると,誰も買ってくれなくなる」というポイントです。「最高級の素材を使った御菓子をお歳暮として商品化した!」「最高級の豚肉と希少な在来大豆を使った味噌の味噌漬け」といったように、高級品、希少品、といった高付加価値を意識した商品の値付けで、参考にすることが多いです。概ね、最適な成果(売行き)に繋がります。
ここで提示する価格は、その価格そのものが「今までのものと、ひと味もふた味も異なりますよ!」という主張をしてくれる一方、「ちょっと頑張れば手が届くかも!」という心理的な価格になることが多いです。
販売する側にとって(飲食店や食品メーカーにとって)は、最も利益率が高い値付け(価格)ということになります。
②妥協価格とは
「高いと思う」のグラフと「安いと思う」のグラフが交わる価格ポイントです。高いと思い始める価格と、安いと思い始める価格は,顧客(消費者)が比較対象としての想定商品・サービスを念頭に感じる「心理的な値ごろ感」です。つまり、その交点が、「比較対象を念頭において、妥協できる価格」と考えられます。
1,000円の霜降り松坂牛 A5等級200gは、知っている方なら誰が見ても安いと思います。しかしながら1,000円のキャンディー1粒(直径1.5センチ)は、誰が見ても高いと思うでしょう。110円~160円の缶珈琲は、量次第で適切と思うものです。
人は「このジャンルの商品ならこれくらいの価格」という心理的な基準があります。PSM分析では、これを妥協価格と呼んでいます。トップシェアの商品の価格と限りなく近い線に収まるのが普通です。それは、多くの方の印象に深く、トップシェアの商品やサービスの価格が根付いているからです。
③理想価格とは
「高すぎて買わない」のグラフと「安すぎて買わない」のグラフが交わる価格ポイントです。高すぎて買えないと思い始める価格と,安すぎて品質に問題があるのではないかと思い始める価格は、どちらも購買に否定的要素の心理が働いた価格を示しています。この交点は,購買に否定的な意見を持つ人が
一番少ない価格だということを表しており、顧客(消費者)の最も多くの人が、買う可能性がある価格ポイントです。
多くの場合,妥協価格より若干安いところに値付けは落ち着きます。この価格に設定すれば,販売数量と利益額が最も良い形でバランスが取れるのが特徴です。ただ、現実的には製造コストの問題で,理想価格に設定することが難しい場合が多いのが難点です。
④下限価格(最低品質保証価格)とは
「安すぎて買わない」のグラフと「高いと思う」のグラフが交わる価格ポイントです。これ以上安くすると消費者が「品質が悪いのではないか」と疑い始める価格ポイントです。市場に早く浸透させたい(普及させたい)といった場合や,特売や目玉商品の価格を検討する際に、参考にします。この価格だと,販売数量は増えますが利益は大きくなりにくいことに注意が必要です。
2)価格設定の勘所とは(値付けのポイント)
妥協価格から理想価格の間を「適正価格帯」と言い,上限価格(最高価格)から下限価格(最低品質保証価格)の間を「受容価格帯」を言います。商品の価格を設定する場合は,できれば適正価格帯内で設定し,それが困難な場合でも,最低限,受容価格帯内で設定すると良いでしょう。
3)PSM分析(価格感度分析)の手順を事例を通じて説明
高価な米菓子を贈答用や御取り寄せ用に展開している支援先の商品があります。これを事例に展開してみましょう。

https://www.mistore.jp/shopping
①価格感度分析実施のためのアンケート(質問票)の内容
アンケート(質問票)では、以下の4つの主旨の質問を設定するようにします。***には商品名やサービス名が入ります。この場合、上記画像の「贈答用や御取り寄せ用の煎餅」の値段を検討する際に実際に実施したものを使って説明していきます。
≪質問:設問≫
Q1. ***は、いくらぐらいから「高い」と思いますか。
Q2. ***は、いくらぐらいから「安い」と思いますか。
Q3. ***は、いくらぐらいから「高すぎて買えない」と思いますか。
Q4. ***は、いくらぐらいから「安すぎて品質が疑わしい」と思いますか。
②回答結果を集計する
集計は、下記の画像を参考にしてください。各質問番号を行、列には価格を明示し、その回答人数をマスに埋めて行きましょう。

その上で、下記画像のように、累積の構成比で、まとめ直すことが必要です。

構成比でまとめ直すコツは、「高い」が含まれる設問、つまりQ1 Q3は、価格が高くなるにつれ、累積構成比が高くなるように。「安い」が含まれる設問、つまりQ2 Q4は、価格が安くなるにつれ、累積構成比が高くなるようにします。
③回答結果の集計をグラフで表現する
前項で整理した「累積した表」を、下記画像のようにグラフで表します。

④グラフから適切な価格を解釈して読み取る
前項のようなグラフの場合、下表のように解釈することが出来ます。
⑴と⑷下限価格
⑶と⑵上限価格
⑴と⑵理想価格(最適価格)
⑶と⑷妥協価格

つまり、この事例の煎餅は、8800円前後の値付けを目指せないかと検討することとなります。
第5章:【実践】原価と市場価格の「ギャップ」をどう埋めるか?(実務への応用)
第1章と2章の「原価から計算した売りたい価格」と、第4章の「PSM分析:価格感度分析で導き出した顧客が買いたい価格」が、常にピタリと一致するわけではありません。
多くの中小企業や小規模の飲食店が直面するのは、「適正な利益を出そうとすると、顧客が許容できる上限価格を超えてしまう(原価率が高すぎる)」という壁です。このギャップを埋めるための実務的な3つのアプローチを解説します。
1)原価率が高すぎる場合の対策(コストダウンと付加価値)
算出した販売価格が市場の相場より高くなってしまう場合、単に「利益を削って安売りする」のは最悪の選択です。まずは以下の両面からアプローチします。
①品質を落とさないコストダウン(VE:バリューエンジニアリング)
・飲食店の場合: 歩留まり(食材の可食部)の改善、食品ロスの削減、仕込み作業の効率化による人件費(加工費)の抑制、またはポーション(1人前の量)の微調整を行います。
・食品メーカーや農業者の場合: 包装資材(パッケージ)の過剰なコスト見直し、製造ロット数の最適化、同等品質の代替原料への切り替えなどを検討します。
②「高くても買いたくなる」付加価値の創造
顧客は「価値>価格」と感じれば購入します。「地元産(○○県産)の厳選素材使用」「無添加・オーガニック」「シェフのこだわり製法」など、商品のストーリー性やブランディングを強化し、ターゲット顧客の「許容上限価格」自体を引き上げる努力が必要です。付加価値を高めていくには、いくつか方法があります。詳しくは、以下の記事を御覧ください。
⇒食品の商品開発の実務手順・成功法則|プロセス・企画書・フレームワーク・アンケート活用・OEMまで|小規模な飲食・食料品製造業向け
⇒食品の付加価値の高い商品開発やメニュー開発の方法(手順)ヴェブレン効果活用アプローチ
2)目標原価率を逆算する「ターゲット・コスティング」
特に食品メーカーの新商品開発において主流となるのが「ターゲット・コスティング(原価企画)」という考え方です。これは、作ってから価格を決めるのではなく、「売れる価格」からスタートする逆算思考です。
・市場売価の設定: PSM分析(価格感度分析)や競合調査から「この商品なら500円で売れる」という市場価格(ターゲットプライス)を決定します。
・目標利益の確保: 企業として確保すべき利益(例:100円)を差し引きます。
・許容原価の算出: 残った400円が「許容原価(ターゲットコスト)」となります。
この「400円以内」で、いかに顧客が満足する品質を実現するかを、開発・製造・購買部門が一体となって知恵を絞るのが、利益を生み出す商品開発の鉄則です。
3)メニューミックス(商品ポートフォリオ)による全体の利益率最適化
飲食店のメニュー構成において、「すべての商品で原価率30%を死守する」という考え方は、実はマーケティング的に正解ではありません。重要なのは「店舗全体のトータル(総粗利)で利益を出す」というメニューミックス(商品ポートフォリオ)の視点です。
商品を以下の2つの役割に分けて価格設定を行います。
・集客商品(ロスリーダー): 原価率が40%〜50%と高く、単品での利益は薄いが、「あの店の〇〇はお得だ!」とお客様を惹きつける看板メニュー、看板商品。圧倒的なコストパフォーマンスで来店動機を作ります。(例:原価度外視の刺身盛り合わせ)
・利益商品(プロフィットメイカー): 原価率が15%〜20%と低く、しっかり利益を稼ぎ出してくれるメニュー。集客商品と一緒に注文されやすいものが理想です。(例:アルコールドリンク、原価の安いサイドメニューやデザート)
原価が高くても売上構成比を伸ばしたい商品と、利益率が高く確実にお金(キャッシュ)を残す商品を組み合わせることで、顧客満足度を高めながら、最終的な目標利益を達成する戦略的な価格設定が可能になります。
⇒より詳しく、この論点を知りたい方は「相乗積を使い新商品や仕入・品揃え・商品のラインとアイテム見直しや改善に活かす方法」を御覧ください。
第6章:【応用編】ブランドやストアイメージを価格に反映させる(価値基準の価格設定)
ここまで、「原価からのアプローチ」と「市場心理からのアプローチ」を解説してきました。最後にもう一つ、こだわりの飲食店や食品メーカーにぜひ実践していただきたいのが、「お店や商品のブランドイメージを価格に反映させる」という視点です。
1)ブランドイメージ(ストアイメージ)と売上の関係
マーケティング活動を丁寧に進めていると、お店に対するイメージ(ストアイメージ)や商品に対する信頼感が次第に定着していきます。このイメージが醸成されると、競合他社の商品よりも価格設定を優位に進めることが可能になります。
例えば、「乳腺炎や糖質制限に悩む方向けのこだわりのマフィンならこのお店」という独自の顧客価値(存在価値)が認知されていれば、一般的なマフィン専門店よりも高い価格設定が実現できます。つまり、「イメージの良さ=顧客が感じる価値」であり、その価値の分だけ「価格を高く値付けできる幅(稼ぐ力)」が生まれるのです。
⇒顧客価値は「【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」を確認しておいてください。
⇒なお、高単価の値付けについては「【飲食店・食品メーカー向け】高付加価値な商品・メニュー開発の具体的な手順!ヴェブレン効果で「高くても売れる」仕組みを作る方法」の記事を御覧ください。
この「稼ぐ力」を客観的に測る尺度として、「販売生産性(売場1平方メートルあたりの販売高)」という指標を活用します。ブランドイメージが確立しているお店は、この販売生産性が高いため、自信を持った価格設定が可能になります。
2)ブランドイメージを価格に反映(算定)する実務手順(販売生産性の活用)
では、具体的にどのようにイメージを価格に落とし込むのか。都内近郊で観光客や地域住民から支持を集める「昔ながらの洋食屋」の事例をもとに計算してみましょう。
【前提条件】
・店舗の売場面積:34㎡
・直近1年間の平均月商:約320万円
まずは、このお店の「販売生産性(1㎡あたり稼ぐ力)」を計算します。
▶ 320万円 ÷ 34㎡ = 94,117円(1㎡あたりの月間売上)
このお店が、自慢の「自家製デミグラスソース」を瓶詰めにして、レジ横に「幅50cm×奥行40cm」の特設販売コーナーを作って販売するとします。
① 販売スペースの面積を計算する
幅50cm(0.5m)× 奥行40cm(0.4m)= 0.2㎡
② そのスペースが稼ぐべき「価値(目標売上)」を算出する
お店の販売生産性は「1㎡あたり94,117円」なので、0.2㎡のスペースが月に稼ぐべき売上は以下のようになります。
▶ 94,117円 × 0.2㎡ = 約18,823円
つまり、この特設コーナーは「月間18,823円の価値を生み出す場所」であると考えます。
③ 販売目標数から「1個あたりの適正価格」を割り出す
仮に、このデミグラスソースが月に「20瓶」売れると想定します。
▶ 18,823円 ÷ 20瓶 = 約941円
計算上、このお店のブランド価値を維持するためには、デミグラスソース1瓶あたり「941円」以上の値付けをする必要があるという目安が導き出されます。あとは、第1章で算出した「原価」とにらみ合いながら、利益が確保できる最終的な販売価格を決定していきます。
最後に:価格設定は「一度決めたら終わり」ではない
いかがでしたでしょうか。
飲食店や食品メーカー、農業者における販売価格の決め方は、「原価計算(自社の視点)」と「PSM分析などの顧客心理(市場の視点)」、そして「メニューミックス(全体のバランス)」という複数の歯車を噛み合わせる高度な経営戦略です。
最後に忘れてはならないのは、「価格設定は一度決めたら終わりではない」ということです。
原材料費の変動、競合他社の動向、トレンドの変化など、外部環境は常に変化しています。「売れ行きが落ちてきた」「忙しいのに利益が残らない」と感じた時は、迷わず原価計算と価格設定の見直しを行ってください。
【Q&A】飲食店・食品メーカーの価格設定に関するよくあるご質問
価格設定や利益管理について、経営者様からよくいただくご質問にお答えします。
Q1. 食材費が高騰していますが、値上げのタイミングはいつが最適ですか?
A. 「利益が出なくなったから」という受動的な理由だけでなく、メニュー改定や新商品の投入といった「価値の再定義」を行うタイミングが最適です。本記事で紹介したPSM分析を行い、顧客が納得する上限価格を確認した上で、単なる値上げではなく「付加価値の向上」とセットで行うことで、客離れを防ぐことができます。
Q2. 飲食店の原価率は一般的に30%と言われますが、必ず守るべきでしょうか?
A. 30%はあくまで目安です。重要なのは「店舗全体のトータル利益」です。原価率が高い集客商品(ロスリーダー)と、原価率が低い利益商品(プロフィットメイカー)を組み合わせる「メニューミックス」の考え方を取り入れましょう。全体のバランスで損益分岐点を上回っていれば、特定のメニューが30%を超えていても問題ありません。
Q3. 小規模な事業所でも、専門家のコンサルティングを受けるメリットはありますか?
A. はい、大いにあります。特にリソースが限られている小規模事業者ほど、一度の価格設定のミスが経営に直撃します。客観的なデータに基づいた原価分析や市場調査を行うことで、経営者の「勘」を「確信」に変えることができます。地域に根ざしたビジネス展開(GEO対策)を含め、地域特性に合わせた戦略立案が可能です。
Q4. 新商品の「適正価格」を出すのに、一番簡単な方法はありますか?
A. 最も確実なのは、まず「自社の固定費」を正しく把握することです。本記事で解説した「1席(1商品)あたりの固定費負担分」を算出する手法を使えば、最低限売らなければならない価格が明確になります。その上で市場の反応を確認するのが、失敗しない最短ルートです。
初稿:2014年9月10日、加筆修正:2026年3月7日、3月16日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。
近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













