食品メーカーの新商品開発の手順や方法

 中小企業の食品製造業(食品メーカー)の方向けに、新商品開発の手順や方法を、整理して説明していきます。全体的な流れは、次のようになります。

目次

目次
①食品メーカーの新商品開発のメリット/デメリット
②新商品開発を「実施すべき」か否か
③新商品開発のプロセスと内容
商品開発のステップ(1) 顧客ニーズや市場の動向をを確認する
商品開発のステップ(2) 競合の状況を確認する
商品開発のステップ(3) 「あったら良いな!」のアイデアを出す
商品開発のステップ(4) 「あったら良いな!」を形にする
商品開発のステップ(5) 市場でテスト販売してみる
商品開発のステップ(6) テスト販売の結果を踏まえ商品やサービスを改善する
商品開発のステップ(7) 発売する

①食品メーカーの新商品開発のメリット/デメリット

 そもそも、新商品開発はなぜ必要なのでしょうか。以下のメリットデメリットを確認しながら、そのあたりの必要性を今一度検討してみましょう。

(主なメリット)
・新商品開発の一連の過程で、自らの事業を見つめ直すことが可能であり、自社の存在価値が理解できます。存在価値はコンセプトそのものであり、新しい商品コンセプトを考える中で、事業のコンセプトが何だったのかを確認できます。事業のコンセプトを具体的に実行するツールが、商品なのです。このあたりの整理は、こちらの記事で詳しく御覧いただけます。(⇒存在価値「商品コンセプト、お店や事業のコンセプト」の内容と設定の仕方

・近未来の「稼ぎ頭」を生み出す可能性がある。

(主なデメリット)

・生み出した商品がヒットするとは限らないため、商品開発に費やした時間や資金、かかわる人材の労力がムダになる可能性があります。
・事業のコンセプトやイメージを逸脱した商品が開発された場合、稀に、事業の「良いイメージ」が毀損する可能性があります。
・新商品を産み出した後、拡販するにあたって、相応の販売促進費が必要になることがあります。

②新商品開発を「実施すべき」か否か

・新商品開発が必要な事業者

 既存のお客様等から「このような商品を作ってほしい」「このような商品があったらうれしい」といった確かなニーズが認識できる場合

・新商品開発が不要な事業者

 既存のお客様から「このような商品を作ってほしい」「このような商品があったらうれしい」といった確かなニーズが存在しない場合。あるいは既存の商品が「もっとこうなるとうれしい」といった改善や改良のニーズがある場合、既存の商品の改善で済む場合があります。

③新商品開発のプロセスと内容

それでは、新商品開発の順序(プロセス)を、改めて紹介します。
(1)顧客ニーズや市場の動向をを確認する。
(2)競合の状況を確認する。
(3)競合や顧客ニーズ等を踏まえ、「あったら良いな!」のアイデアを出す。
(4)商品やサービスとして「あったら良いな!」を形にする。
(5)市場でテスト販売してみる
(6)テスト販売の結果を踏まえ、発売しようとする商品やサービスを改善する。
(7)発売する。

商品開発のステップ(1) 顧客ニーズや市場の動向をを確認する

まずは顧客ニーズを把握します。色々なアプローチがありますが、まずは日々接している小売業のバイヤーや、末端の消費者との接点が持てる場合は(お客様から)、どのような意見や要望があるのかを整理していきます。顧客ニーズの把握の仕方には、アプローチがありますので、ぜひこちらの記事も参考にしてください。(⇒顧客ニーズの見つけ方)

 また、下図のように、自社の商品や、あるいは競合でベンチマークにしている商品の口コミサイトに寄せられる悪口や批評からも、知ることができます。批評や悪口というものは、見方を変えると、消費者からの改善要望や期待と言えます。従って、顧客ニーズと言い換えることも可能です。


 次に市場の動向の確認です。市場の動向の確認とは、既述の顧客ニーズを踏まえ、本当に商売として成り立つ売上が確保できるのか、そのニーズに対応した商品があれば、どのくらいの売上が見込めるのか等々を確認していきます。

 ポイントは、「顧客ニーズの内容は、市場と乖離していないか?」「市場は追い風なのか?向かい風なのか?」を確認する作業になります。方法としては、種々ありますが、身近なのは、インターネットの検索機能を使って、2次データを調べて整理していくことでしょう。

 例えば、特定地域の食品スーパー(量販店)の主たる顧客層が高齢者であり、その方々向けに新商品開発を行う場合、地域の高齢化の進展はどのような状況なのかを確認していきます(下表)。この表の場合、総人口は2015年をピークに減少傾向であることがわかります。一方、高齢者の人口は「まだまだ伸びしろ」がありそうですね。従って、市場性があると判断することもあるでしょう。

商品開発のステップ(2) 競合の状況を確認する

競合の状況を確認するとは具体的に以下のようなことです。
・競合と思う商品を可能な限り「すべて」挙げて、これらの事業者の主力商品やサービスを研究することです。もし同じような商品やサービスを開発することになる場合は、これら競合の事業者よりも「より高機能」で「よりデザイン性」が高いものを生み出す努力が必要になります。高機能とは、お客様にとって「利便性が高いと感じられる要素を商品(サービス)の仕様に取り入れること」です。デザイン性とは、お客様にとって「商品(サービス)の魅力が伝わる色調やコピー、文言、荷姿や量目」を指します。

 例)高機能:高齢者向けのレトルト食品を開発する場合、咀嚼が困難な方に目を向け(競合が実施していないから)、咀嚼が困難な方でも食べられるように配慮する等です。競合より柔らかく、食べやすくすることが商品開発のポイントになります。
 例)デザイン性:高齢者向けの袋入りパンを開発する場合、「咀嚼が困難な方でも食べられるように配慮」したことを、高齢者の方が一目瞭然で理解できるパッケージデザイン(コピーや説明文の記載等)にしなければなりません。また、高齢者が手に取って恥ずかしくないようなパッケージの色調等を研究します。

・競合が目指そうとしていることを推察します。可能な限り、競合と同じことを考えたくないものです。競合と異なれば、自社の新商品が日の目を見る可能性(俗にいうところの差別化)が高まるからです。

例)競合が低価格のレトルト食品を製造販売している場合、自社はどこを目指せば良いのか?
 競合が実施していない隙間を見つける。例えば、野菜中心で高価格な商品は競合が実施していない、お肉中心で低価格の商品は隙間がありそう、といった感じです。

商品開発のステップ(3) 「あったら良いな!」のアイデアを出す

 これまでのステップを踏まえ、「誰に」対して「何」を「どのように」提供したいのかを検討していきます。例えば先に紹介した高齢者向けのレトルト食品を新商品として開発する場合、次のように考えることができます。
誰に:高齢者の方々に(攻略したい食品スーパーの主たる顧客に高齢者が多いから)
何を:レトルト食品を(実際のお客様の声から、簡便なレトルト食品の種類が沢山ほしいという要望が多いから)
どのように:野菜中心で高価格なものや、お肉中心で低価格のもの。咀嚼が困難な方でも食べられるように(高齢者の加齢とともに、多くの方々の食事上の課題と認識できるから)

 このように整理したら、次はアイデアを出す段階です。「どんな商品なら喜んでくれるだろうか」、「どのようなサービスならお客様が満足するだろうか」、このあたりをイメージしながら、1人でも多くの方を巻き込んでアイデアと出し合いましょう。アイデアを出す場合はオズボーンのチェックリスト等のツールで検討して見るとアイデアが出やすいです。
 例)縮小
 現状、若年層向けには、お肉やジャガイモ等の具が大きいカレーが人気だが、高齢者向けには、具を細かく賽の目に切り、長時間煮込んで、具が小さくて口どけが良いカレーなら喜ばれるのではないか?

商品開発のステップ(4) 「あったら良いな!」を形にする

 先のステップでアイデア出しをしたら、今度はそれを具体的に形にしていく段階です。狭義的には、この段階を商品開発と言います。例えば「具を細かく賽の目に切り、長時間煮込んで、具が小さくて口どけが良いカレーなら、高齢者に喜ばれるのではないか?」と考えた場合、実際に何度も試作し、「口どけが良くなったのか?」を確認しながら形にしていきます。確認の際には親戚や友人、固定客の方々の意見を聞きながら進めていくと「精度の高い」商品化が可能です。
 この過程で「意見を聞きながら」とありますが、都度聞く必要はありません。商品開発のスピードが鈍化してしまいます。そこで「これぐらいで良いのでは無いか?」「これで良いのでは?」といった実感が生まれたところで、体験してもらい、意見を聞くようにします。


 「あったら良いな!」を形にする過程では、主に以下の点に留意して進める事をおすすめします。
・品質が一定になるように
 例えば、ある時は「しっとりした食感のビスケット」ある時は「固い食感のビスケット」では、「これ大丈夫?」というように、お客様に不安を感じさせてしまいます。サービスにおいても、ある時は「丁寧に」ある時は「雑に」ではお客様は不安を感じるでしょう。

・1度に多くのお客様に提供できるように
 新商品開発の目的の1つは「売上を向上させる」ことにあります。従って、ヒットしないまでも、たくさん売れるようになることが大切です。そうなったときに困らない準備をしておく必要があります。例えば、高齢者向けのレトルト食品の場合、ご家庭で扱っているレシピでは不十分です。このレシピは「少量での製造」に適したものです。それを一気に数千袋から数十万袋と製造するようだと、微妙に風味が変わるものです。スープ等では、仕込む量が多くなると火の通りが遅く、ご家庭の小鍋で設定していた野菜の切りサイズや煮込み時間では不十分かもしれません。つまり、量を多く仕込む視点でのレシピ開発が必要になります。

備考)食品メーカーの新商品開発の要は、パッケージデザインとも言えます。パッケージデザインをどのように検討していけば良いのか、色や色彩、色調は?といった疑問を説明していますので、こちらの記事も参考にしてください。(⇒食品のパッケージデザインの決め方、方法)

商品開発のステップ(5) 市場でテスト販売してみる

これまでのステップで「あったら良いな!」が形になったら、試験的に少量を販売してみましょう。数百袋程度が目安です。実際にお客様に体験いただき、感想や使い勝手、満足度等をヒアリング等で確認していきます。
 「もう少しこうなれば良いのに・・」「この点が素晴らしい・・」等、良い点悪い点を意図的に聞き出すようにしましょう。

商品開発のステップ(6) テスト販売の結果を踏まえ商品やサービスを改善する

 前項で「もう少しこうなれば良いのに・・」といった意見が多い場合は、まだまだ改善の余地があるということです。諦めずに何度でも、そのような悪い点の意見が無くなるまで改良と改善を重ねることが大切です。気を焦って発売してしまうのは、後で売れ行きに影響するばかりでなく、無駄なクレーム対応等が発生してしまいます。

商品開発のステップ(7) 発売する

テスト販売であった「この点が素晴らしい・・」等の良い点の意見を、キャッチコピーに活用するなど、様々なツールを活用して、商品やサービスを拡散するように販売していきます。

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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