「こだわりの素材を使っているから、少し高めの値段設定にしたけれど、なかなか売れない…」 「ライバル店との価格競争から抜け出して、もっと利益の出るメニューを作りたい」
飲食店や食品メーカーの経営者様、商品開発の担当者様、マーケティング担当者様から、日々このようなご相談を多くいただきます。原材料費が高騰する昨今、「高付加価値(付加価値の高い)商品やメニュー」を開発して客単価を上げることは、生き残りのための必須条件となっています。
しかし、「高付加価値=ただ高級な素材を使って、高い値段をつけること」だと思い込んでいませんか?実は、そこに大きな落とし穴があります。
この記事では、経営コンサルタントの視点から、本当の意味での「高付加価値」とは何かを分かりやすく解説し、消費者の心理(ヴェブレン効果)を活用して「高くてもお客様に喜んで選ばれる」商品・メニュー開発の具体的な手順をお伝えします。専門用語はできるだけ使わず、たくさんの事例を交えて解説しますので、ぜひ最後までじっくりお読みください。

第1章:そもそも「高付加価値な商品・メニュー」とは?
私たちがご支援する現場で、「付加価値の高い商品を作りましょう!」とお話しすると、多くの方が概念を誤解されています。まずは、この誤解を解くところから始めましょう。
頭の体操として、ここで一つクイズを出題します。ぜひ一緒に考えてみてください。
【クイズ】以下の2つのうち、どちらが「高付加価値」な商品でしょうか?
A:「中国産ヒジキの佃煮」 B:「国産のこだわり産地で採れたヒジキの佃煮」

いかがでしょうか? おそらく多くの方が、「もちろん、Bの国産こだわりヒジキでしょ!安心だし、品質も良さそうだから価値が高い!」と直感的に答えられたのではないでしょうか。なんとなく「国産の厳選素材=価値が高い」と思い込んでしまいがちですよね。
しかし、経営やマーケティングの視点から見ると、「この情報だけでは、どちらが高付加価値かは分からない」というのが正しい正解になります。
なぜなら、商売における「付加価値」とは、単なる品質の良さではなく、「どれだけの利益(粗付加価値額)を生み出したか」で判断する必要があるからです。
ここでは分かりやすく、「売上価格 - 外部からの仕入れ原価 = 粗付加価値額(1個あたりの儲け)」として計算してみましょう。付加価値の本当の姿を知るためには、ここに「販売個数」という情報を掛け合わせる必要があります。
では、具体的な数字を入れて種明かしをします。
【A:中国産ヒジキの付加価値額】
・1個あたりの儲け:100円(売価)- 30円(原価)= 70円
・販売個数:1,000,000個
・付加価値の合計額:70円 × 1,000,000個 = 70,000,000円(7,000万円)
【B:国産こだわりヒジキの付加価値額】
・1個あたりの儲け:10,000円(売価)- 6,000円(原価)= 4,000円
・販売個数:10,000個
・付加価値の合計額:4,000円 × 10,000個 = 40,000,000円(4,000万円)
いかがでしょうか。会社にもたらす「付加価値の合計額」で見ると、圧倒的に「Aの中国産ヒジキの佃煮」の方が高い(7,000万円)という結果になりました。つまり、ビジネス全体で見れば、Aの方が高付加価値な商品だと言えるのです。
第2章:やってはいけない!高付加価値化「5つの誤解」
第1章のクイズを通して、「なんとなく良いもの=高付加価値」ではないことがお分かりいただけたかと思います。ではなぜ、多くの方が「国産の方が高付加価値だ」と勘違いしてしまうのでしょうか。
それは、以下の「5つの誤解」が世の中に蔓延しているからです。ご自身の商品開発がこの罠に陥っていないか、チェックしてみてください。
× よくある5つの誤解
高付加価値商品 = とにかく「高価」な商品である
高付加価値商品 = 性能が良い「高機能」な商品である
高付加価値商品 = いろんなことができる「多機能」な商品である
高付加価値商品 = ラグジュアリーな「高級志向」の商品である
高付加価値商品 = 職人が作ったような「本物志向」の商品である
これらはすべて、開発者側の「作り手の思い込み(プロダクトアウトの発想)」です。正しい理解は、これらをきっぱりと切り離すことです。
○ 正しい5つの理解
高付加価値商品 ≠(イコールではない) 高価な商品
高付加価値商品 ≠ 高機能な商品
高付加価値商品 ≠ 多機能な商品
高付加価値商品 ≠ 高級志向の商品
高付加価値商品 ≠ 本物志向の商品
身近な例でもう一度考えてみましょう。(※ここで有名なチョコレート菓子などを想像してください)
「高級なパティシエが作った1箱3,000円のトリュフチョコレート」と、「スーパーのレジ横にある1箱150円の定番チョコレート」。
どちらが会社にとっての「高付加価値商品」でしょうか?
圧倒的な販売点数を誇り、莫大な利益額を会社にもたらしているのは、間違いなく後者の「150円の定番チョコレート」です。高付加価値を目指すからといって、必ずしも「高級志向・高単価」を目指す必要はない、ということをまずはしっかりと心に留めておいてください。
コラム:江崎グリコのポッキーで高付加価値という概念を考える

では、ここまで学んできた皆さんに、再び質問です。グリコの赤色(レギュラー)と、少し値段が高い右のアーモンドポッキーとでは、どちらが 高付加価値な商品ですか?
答えは赤になりますね。想像する範囲でも赤の方が販売点数が圧倒的に多いことでしょう。結果、付加価値額を算出すれば、赤が大きいことは疑いようが無いと言えますね。
第3章:利益を生み出す「高付加価値経営」の考え方
高付加価値な商品やメニューの「本当の姿(=利益額が大きいこと)」が理解できると、会社やお店を強くする「高付加価値経営」の本質が見えてきます。
難しく聞こえるかもしれませんが、高付加価値経営とはシンプルに「付加価値の高い(=しっかり利益を稼いでくれる)商品やメニューを活用して商売を上手く進めること」です。
ここで重要になるのが「相乗積(そうじょうせき)」という考え方です。相乗積とは、「売上構成比(どれくらい売れているか)」×「粗利率(どれくらい儲かるか)」で計算される指標です。
たとえば、お店全体の平均粗利率が20%だとします。このとき、平均よりも高い利益率(例えば30%や40%)を出している商品やメニューに注目します。そして、その中でも「すでにたくさん売れている人気商品」の販売をさらに強化したり、少しアレンジを加えてリニューアル(リメイク)したりすることが、経営を安定させる一番の近道なのです。
「新しく高級なものをゼロから作る」ことばかりに目を向けるのではなく、まずは「今ある商品の中で、最も額(利益)を稼いでいるエース商品」をさらに伸ばす取り組みから始めるのがポイントです。
⇒相乗積について、もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事「【図解・エクセル】相乗積とは?計算式や粗利ミックスの考え方を小売・飲食店・食品メーカー向けにわかりやすく解説」を御覧ください。
第4章:「高くても買いたい」を作る心理学「ヴェブレン効果」とは?
「高付加価値=高級志向ではない」とお伝えしましたが、では「高級志向」の商品やメニューを作りたい場合はどうすればよいのでしょうか。付加価値額の計算だけでは、お客様が「高くても欲しい!」と思うプレミアムな領域には到達できません。
そこで重要になるのが、「消費者の購買心理や行動」に焦点を当てることです。 具体的には、「ヴェブレン効果」という心理学の法則を活用します。私たちのコンサルティングの現場でも、この効果を使った商品・メニュー開発は非常に成功率が高いため、強くおすすめしています。
1)ヴェブレン効果とは?
商品やメニューの実用的なメリット(お腹を満たす、喉を潤すなど)だけでなく、「何かしらの『特別感』があるからこそ、それを手に入れることに価値を感じる」という消費者の心理のことです。
「これを買えば、特別な体験ができる」「これを注文すれば、悩みが解決して優越感に浸れる」といった、感情を動かす仕掛けを作る戦略です。
第5章:ヴェブレン効果を使った高級志向(商品)開発のポイント
ヴェブレン効果を商品やメニューに落とし込む際の最大のポイントは、「手に入れることで得られる『特別感』を、どうやってお客様に伝えるか」を考えることです。
ここで絶対に忘れてはいけないルールがあります。それは、高級志向には必ず「比較対象」が必要だということです。お客様は、「既存の定番商品」や「他店の一般的な商品」と頭の中で比較して、初めて「これは特別だ(だから高くても買う価値がある)」と納得します。
・よくある失敗例
食品メーカーや飲食店が「高級志向の商品を作ろう!」と思い立ったとき、真っ先にやってしまうのが「とにかく高級な地元のこだわり食材(例えば、神奈川の希少な野菜や、秋田の特別なクラフトビールの製法など)を使うこと」や「パッケージを豪華にすること」です。
しかし、これは順番が逆です。あくまで「お客様が特別感を得られるストーリー(設計)」が先にあり、そのストーリーを裏付けるための手段として、こだわりの食材や豪華なパッケージが活きてくると理解してください。
第6章:【実践手順】ヴェブレン効果を活用した開発4つのステップ
では、実際にどうやってヴェブレン効果を活用して商品やメニューを開発すればいいのでしょうか。具体的な4つのステップで解説します。
1)ステップ①: 消費者が「特別だ」と感じてくれる要素を発掘する
食べ物や飲み物は日常的に口にするものです。だからこそ、「普段食べているときのネガティブな要素(悩みや不満)」の中に、特別な価値を生み出すヒントが隠されています。
(例)
油で揚げた食品:カロリーが高くて太りそう、胃もたれがする
ジャガイモなどの加工食品:糖質を摂りすぎてしまう
丼ものメニュー:野菜が少なくて栄養バランスが偏る
まずは、あなたが高級志向に育てたい商品の「ネガティブ要素」を思いつく限り書き出してみてください。
2)STEP②:発掘した要素を「特別だと感じるストーリー」に変換する
STEP①で見つけた「ネガティブ要素」を「軽減・改善」することで、お客様にとっての「特別なストーリー」を作り上げます。
(例)
油で揚げているのに、「カロリー過多にならない」なら特別感がある!
揚げ物なのに、「まったく胃もたれしない」なら特別感がある!
丼ものなのに、「1食で1日分の栄養バランスが完璧に整う」なら特別感がある!
3)STEP③ ストーリーを具体的な「商品・メニュー像」に設計する
STEP②のストーリーを実現するための商品像を作ります。ここで重要なのは、特別感を演出する手段を「食材」に頼り切るのではなく、「独自の加工や調理法」に重きを置き、そこに「希少性」や「限定性」を掛け合わせることです。
【春菊の天ぷら】を例にした良し悪し
ダメな例:「わずか〇〇株しか栽培されていない希少な春菊の低カロリー天ぷら」
理由: 調理法に特別なノウハウがなく、希少な春菊さえ仕入れられれば誰でも作れてしまいます。これでは「あなたの店・会社」から買う理由になりません。
良い例:「1日100個限定!当店独自のカロリーオフ製法で作った春菊の天ぷら」
理由: 独自の加工・調理ノウハウがあり、他店には真似できない点が、お客様にとっての「特別感」になります。
一番理想的な例:「わずか〇〇株しか栽培されていない幻の春菊を使用!1日100個限定の独自カロリーオフ製法・春菊天」
理由: 他店には真似できない「独自の調理法」に加えて、手に入りにくい「希少な原材料」が合わさることで、お客様の期待値と特別感は最高潮に達します。
4)STEP④:高級志向の開発は「原料ありき・見た目ありき」ではない
最後にもう一度まとめます。
高級なパッケージデザインや、こだわりの原材料を使うことは素晴らしいことです。しかし、「高級なパッケージにして、良い素材を使えば高級志向の商品になる」というのは間違いです。
お客様が抱えるネガティブな要素を解決する「独自の調理法や加工技術」というストーリーがあってこそ、ヴェブレン効果は発揮されます。この順番を間違えずに取り組んでみてください。
5)そもそも新商品開発や既存商品の改善の手順は?
そもそも高付加価値な商品を開発する前に、そうではない日常的な新商品開発を行いたい場合は、こちらの記事「食品の「新」商品開発や「新」メニュー開発の実務手順・成功法則|企画書・フレームワーク・アンケート活用・OEMまで|小規模な飲食・食料品製造業向け」で詳しく解説しています。
また、商品開発の前提は、その商品そのものの「顧客価値(存在価値)」です。開発に取り掛かる前に、しっかりと練り上げておきましょう。詳しくは、こちらの記事「事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」で御覧いただけます。
第7章:【Q&A】高付加価値な食品・メニュー開発に関するよくある質問
Q1. 飲食店の客単価を上げるには、単純にメニューの値段を上げればいいですか?
A1. 単純な値上げは客離れを引き起こす危険性があります。まずは、現在のメニューの中で「販売数も多く、利益率も高い商品(相乗積が高い商品)」を見つけ、その商品の魅力をさらに高めたり、見せ方を工夫したりして販売を強化することが、最も安全で確実な単価アップ・利益アップの近道です。
Q2. 「高付加価値な食品」とは、具体的にどのようなもののことですか?
A2. よく「高級な素材を使った高い商品」と誤解されますが、ビジネスにおける高付加価値とは「会社やお店に多くの利益(粗付加価値額)をもたらす商品」のことです。たとえ単価が低くても、販売個数が圧倒的に多く、結果的に大きな利益を生み出している定番商品こそが、真の高付加価値商品と言えます。
Q3. 心理学の「ヴェブレン効果」とは何ですか?分かりやすく教えてください。
A3. ヴェブレン効果とは、商品の機能や実用性だけでなく、「それを手に入れること自体に特別な価値(優越感やステータス)を感じる」という消費者の心理のことです。食品や飲食メニューにおいては、「他にはない独自の製法」や「1日限定〇食」といった特別感を演出することで、「高くても買いたい」という気持ちを引き出すことができます。
Q4. 小さな食品メーカーや個人店でも、高級志向の商品開発は可能ですか?
A4. はい、十分に可能です。大切なのは高価な食材を仕入れることではなく、「お客様の不満や悩みを解決する独自のストーリー」を作ることです。例えば「揚げ物なのに胃もたれしない独自の油抜き製法」など、自社にしかできない加工・調理の工夫に「限定性」を持たせることで、小規模事業者でも魅力的な高級志向商品を開発できます。
Q5. 商品のパッケージを豪華にすれば、高くても売れるようになりますか?
A5. パッケージを豪華にするだけでは、継続的に売れるようにはなりません。まずは「お客様がどんな特別感を求めているか(カロリーオフ、特別な体験など)」というストーリーの設計が最優先です。豪華なパッケージやこだわりの素材は、そのストーリーを裏付け、お客様に納得していただくための「後付けの手段」であると理解してください。
Q6. 高く売れる新商品を開発する具体的な手順を教えてください。
A6. 以下の4つのステップで進めるのがおすすめです。
日常的に食べる際のネガティブな要素(カロリーが気になる、等)を洗い出す。
そのネガティブを解消する「特別だと感じるストーリー」を作る。
ストーリーを実現するため、自社独自の「加工・調理法」を組み込む。
最後に「希少性」や「限定性」、それに合ったパッケージや素材を選ぶ。
違いです。そこを忘れないで取組みましょう。
初稿:2020年2月10日 加筆修正:2022年7月27日 、2025年6月2日、2026年3月14日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。
近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













