ロングセラー商品の開発や、ロングセラー商品に育てていくことは、中小食品メーカーの生き残り戦略において、とても重要なファクターです。
はじめに:なぜ中小の食品事業者に「ロングセラー」が必要なのか
現代の食品市場は、日々新しい商品が生まれては消えていく激戦区です。大ヒットを記録する「ベストセラー」を生み出すには、大々的なプロモーションや大資本が必要になることが多く、小規模・中小企業にとってはリスクの高い勝負になりがちです。だからこそ、中小企業が目指すべきは「ベストセラーよりロングセラー」です。特定の顧客に深く愛され、10年、30年、50年と安定して売れ続ける看板商品を持つことは、企業の経営基盤を強固にし、価格競争から脱却するための最大の武器となります。本記事では、インターネットでの検索需要も高い「ロングセラーの理由や特徴」を整理しながら、名だたる企業の事例を通じて、中小企業が実践すべきブランド戦略を紐解きます。
1. ロングセラー商品とは何年売れれば定義されるのか?
そもそも「ロングセラー」とは何年を指すのでしょうか? 厳密な定義はありませんが、食品業界においては一般的に以下のような期間が目安となります。
・10年の壁:一過性のブームを越え、市場に定着した定番商品。
・30年の壁: 親から子へ、世代を超えて消費され始める期間。
・50年・100年の壁: 日本の食文化や社会のインフラとして深く根付いた「超ロングセラー」。
重要なのは「ただ古い」だけではなく、「時代に合わせて価値を保ち続けている」ということです。
2.湖池屋に学ぶ、「守るべき原点」と「新たな挑戦」の切り分け
ロングセラー戦略を考える上で、湖池屋の事例は中小企業にとって非常に示唆に富んでいます。同社は「守るべき看板」と「新たな市場を開拓する新ブランド」を明確に切り分けて成功を収めました。
・変わらない絶対的エース:「ポテトチップス のり塩」
1962年の発売以来、お馴染みの黄色いパッケージで親しまれている「のり塩」は、現在も湖池屋の基本であり絶対的な屋台骨です。この商品が長く愛される理由は、日本人の味覚に合わせた「ブレない美味しさ」という原点を頑なに守り続けている点にあります。

・老舗の技術を再定義した新ブランド:「湖池屋プライドポテト」
一方で、価格競争が激化する市場に対し、湖池屋が「老舗ポテトチップスメーカーの誇り」をかけて新たに立ち上げたのが「プライドポテト」ブランドです。のり塩とは全く異なるスタイリッシュなパッケージを採用し、素材と製法にこだわった「高付加価値(プレミアム)」という新しい立ち位置を確立しました。
この成功は当時、当事務所が「週刊現代(講談社)(全国)(2017,0311)(湖池屋プライドポテトのヒットの理由)」の取材で対応した内容からの引用ですが、後述する「ヴェブレン効果」が肝になります。
・中小企業が学ぶべき視点
自社の原点であり、長年のファンがいる「看板商品(=のり塩的ポジション)」は、安易に味やコンセプトを変えてはいけません。もし新しい顧客層や高価格帯を狙うのであれば、既存商品のブランドを崩すのではなく、「自社の強みを活かした別ブランド(=プライドポテト的ポジション)」として展開し、リスクを分散させることが重要です。
3.大手企業のロングセラー商品に共通する「隠れたアップデート」
・「ロングセラー商品」と検索すると
ロングセラー商品と検索すると、山崎パン(ヤマザキ:山崎製パン)、森永製菓、カルピス、不二家といった具体的な企業名が多く調べられています。これら日本を代表するお菓子や飲料、菓子パンのロングセラーには、共通する特徴があります。それは「消費者に気づかれないレベルでの、絶え間ない改良(マイナーチェンジ)」です。
・山崎パン・菓子パンの事例
インターネット検索で出てくる同社の取組の状況を総括すると、「誰もが知る定番パンも、時代の嗜好や健康志向の変化に合わせて、生地の配合や甘さを少しずつ調整している」ようです。
・カルピスや森永製菓の事例
パッケージデザインの基本となるロゴやテーマカラー(カルピスの水玉など)は絶対に変えませんが、フォントの太さやイラストの配置など、時代遅れにならないための微細なデザイン変更を行っているようです。
・中小企業が学ぶべき視点
「昔ながらの味」を謳う商品であっても、現代の消費者の味覚やライフスタイルに合わせて「目立たないように最適化」し続ける努力が必要です。「変えないために、変え続ける」姿勢こそが、商品が陳腐化しない最大の秘訣です。
4.中小企業の実践編:パッケージ・POP・誕生物語でファンを作る
大企業のように莫大な広告費をかけられない中小企業は、店頭やSNSでの地道なコミュニケーションが命綱になります。
・パッケージとPOPは最強の「無言の営業マン」
商品の魅力や世界観を伝える上で、パッケージデザインは極めて重要です。また、小売店の店頭に置かれる「POP」は、消費者の購買を後押しする最後の一押しとなります。
機能的価値(おいしい、安い)だけでなく、感情的価値(懐かしい、安心する)を刺激するデザインやキャッチコピーを心掛けましょう。具体的な方法や手法は、以下の参考記事で丁寧に説明しています。
(参考記事)
⇒そもそも、機能的価値や感情的価値とは?これらの顧客価値の考え方は「【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」を御覧ください。
⇒「売れる!加工食品・お菓子のパッケージデザインの作り方・作成方法と相場|おしゃれな成功事例も」
⇒食品の商品開発の実務手順・成功法則|プロセス・企画書・フレームワーク・アンケート活用・OEMまで|小規模な飲食・食料品製造業向け
・「開発秘話(誕生物語)」の共有
消費者は商品だけでなく、その背景にあるストーリーを買います。ロングセラーであれば尚更です。「なぜ、この商品を開発したのか」「どんな苦労があったのか」といった開発秘話や誕生物語を、パッケージの裏面、自社サイト、SNSなどで積極的に発信してください。ストーリーに共感した顧客は、価格に関わらず長く買い続けてくれる「ファン」になります。具体的な方法は、以下の記事に説明しています。
⇒「【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」の「第11章:ロングセラー商品開発:商品の改良や改善をを顧客と一緒に」を御覧ください。
5.POSデータを活用して「本当のファン」を見極める
商品がロングセラーになる資質があるかどうかを見極めるには、データに基づく冷静な分析も必要です。日経POSデータなどを活用できる環境があればベストですが、自社の販売データや取引先から得られる情報を読み解くことでも十分に戦えます。
・リピート率の確認
新規顧客へのアプローチも大切ですが、ロングセラーを支えるのは「2回以上買ってくれる顧客」です。一定のリピート層が形成されているかを確認しましょう。
・特売に依存していないか
安売りの時しか売れない商品は、ブランド力が育っていません。通常価格でどれだけ安定して動いているか(ベースラインの確認)が、ロングセラーへの試金石となります。
6.中小企業向け・ロングセラー診断チェックリスト
御社の主力商品が、今後長く愛され続けるためのポテンシャルを持っているか、以下の項目でチェックしてみてください。皆さんの会社なりに、以下にプラスして、内容を充実していってくださいね。
☑【原点の明確化】その商品の「これだけは絶対に守る」という核(コアバリュー)が社内で言語化されているか?
☑【時代の適応】コアバリューを守りつつ、味や成分、パッケージデザインを現代に合わせて密かにアップデートできているか?
☑【ストーリーの発信】商品の誕生物語や作り手のこだわりを、POPやパッケージ等で消費者に伝えられているか?
☑【ブランドの棲み分け】既存の看板商品(のり塩的ポジション)と、新しい挑戦をする商品(プライドポテト的ポジション)を混同せず、戦略を分けているか?
☑【データ分析】POSデータや売上推移から、特売に依存しない「安定したリピート層」の存在を確認できているか?
7.ロングセラー商品を開発するには基本の商品開発の手順や方法が重要
本記事で出逢った皆様には、ぜひ、以下の商品開発の手順や方法を御覧いただきたいと思います。この基本があって、ロングセラー商品が生まれるのです。
⇒「【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」
御案内①:商工会や商工会議所向けセミナーについて
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初稿:2016年2月11日、加筆修正:2026年3月5日
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飲食店のメニュー開発や食品メーカー(製造業)の商品開発の記事
久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。
近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













