フードテックの現状と事例

支援先の食品メーカー(大企業、中小企業問わず)のマーケティングや商品開発の現場で、頻繁に話題に挙がるフードテック。この内容と現状について整理しました。

目次

1.フードテックとは

2.フードテックが食の研究や商品開発のトレンドになる理由

3.フードテックの事例

1)ゲノム編集による農水産資源の生産性向上と利用価値増大

2)資源の有効利用による農水産資源の生産性向上と利用価値増大

3)プラントベースフード

4)シェアリング農業に見られる対価としての食料

5)昆虫食に見られる代替性の生産

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1.フードテックとは

 フードテックとは、最新の製造技術、培養技術、情報技術、デザイン技術等の化学や科学技術を駆使することにより、新たな調理方法、風味や食味、栄養バランス等を実現することの総称を指します。

 ひと昔前では治療が困難であった種々の難病が、医療技術の進歩により、治療が叶うようになってきたことと同様に、食糧の世界でも、昔は食べれなかった、あるいは食べようとしなかったものを、食べよう、食べれるようにしよう、といった機運が高まっています。近年、耳にし、実際に市販されている昆虫食や、大豆ミートなどは、その一例です。

2.フードテックが食の研究や商品開発のトレンドになる理由

 これは、皆さまも耳にしたことがある「食料危機」が背景にあります。世界的に見ると人口は増加傾向にあります。一方で気候変動の影響で、農業や水産業に甚大な影響が見られるのは、御存知のことでしょう。

 迫りくる食料危機の時代を見据え、食べれないものを食べれるようにする、食べていなかったものを常用食に進化させる、といったニーズが顕著になってきたのです。

3.フードテックの事例

1)ゲノム編集による農水産資源の生産性向上と利用価値増大

 ゲノム編集という言葉を知っていますか。これは生物の遺伝子を研究し、特定の働きをするDNAを発掘し、そのDNAに刺激を与えることで、人間にとって都合の良い変化へと誘導させる技術です。遺伝子組み換え技術と混同されることがあるようですが、まったく別物の技術になります。遺伝子組み換えは、生物に、別の生物の遺伝子を組み込み、新たな新生物を創ることと説明できますので、違いは一目瞭然でしょう。

 このゲノム編集、水産資源の養殖の現場や、農作物の栽培の現場での研究が、かなり進んでいます。例えば、成長に起因するDNAに刺激を与え、通常は1年かかり出荷サイズになる畜産を、3ケ月に短縮したり、甘味が無い作物の特定のDNAに刺激を与え、甘味を引き出したりといった具合です。将来、その辺に颯爽と生い茂っている「ただのアブラナ科の雑草が、小松菜のような食味で食料として普及」ってことはありえる技術です。

2)資源の有効利用による農水産資源の生産性向上と利用価値増大

 人間にとっての無駄や、ロス(もったいない)に着眼し、これを改善しようとする現場に、最新の種々の技術や知見を組み入れて、新たな食料生産や、既知の食料の増産を図ろうという技術です。著者は、フードテック全体から俯瞰する範囲では、1番安全性が高く、生物多様性を踏まえた技術になるのでは無いかと着眼しています。

 例えば、当事務所がお手伝いしている、神奈川県逗子市の小坪漁港での「キャベツウニ」も、この取組の1つです。

キャベツウニ生産の様子
キャベツウニ生産の様子
キャベツウニの雄
キャベツウニの雌

 漁師の漁業において、漁場で度々悩まされていた天然のウニ。邪魔者扱いで、漁場の安全や収量をあげるため、水揚げされれば廃棄が当たり前でした。とは言え、ウニは中身が充実していれば売り物になることは自明です。そこで神奈川県水産試験場との共同研究で、キャベツを食料にすれば、所与の身なりになり、売り物になる養殖環境を汎用性のあるレベルまで技術整理できたのです。地元には大手食品スーパーのスズキヤがあります。ここでは青果売場のキャベツは、表側の葉っぱをはいで、綺麗な部分を販売しています。その表側の葉っぱは見栄えこそ悪くとも、食べれる資源ですので(可食部)、これを、このウニのエサとしたのです。

3)プラントベースフード

 これは、植物(大豆、お米、椎茸、トウモロコシ等々)を、種々の精肉が持つ栄養素として代用しようという加工技術です。牛をはじめ、精肉生産の現場では、種々の穀物が飼料として大量に必要となります。肉の消費量を減らし、植物由来に切り替わっていけば、限られた飼料生産を、人の食料生産へと振り向けることが可能です。

 私が山崎製パンに就職したころ、大豆油糧新聞という業界紙で不二製油の取組を知りました。とてもショッキングであった一方、大手食品メーカーの研究開発の現場では、このような発想も未来、必要なのだろうと自戒したものです。この新聞で紹介された記事の内容は、大豆を精肉代わりに加工した、今で言うところの大豆ミートです。大豆は、タンパク質が豊富で、人間が摂取しなければならない必須アミノ酸がバランスよく配合していることに着眼したのでしょう。不二製油という油脂会社という印象は、昔の話になってしまいましたね。

by オムニミート(OMN! MEAT)

4)シェアリング農業に見られる対価としての食料

 これも著者がフードテックと言われる世界で、おススメする健全な拡がりの1つになります。これは、一定の耕作エリアを、複数の人間で栽培管理し、そこで得られた農作物を、耕作へのかかわり程度で、シェアして消費するという取組です。原価計算の世界で、工場の電気代という間接費を、商品の実際の製造時間(稼働時間)で、各商品に経費按分することに似ています。

 情報技術が発展し、IoT農業といった言葉を耳にする機会が増えていると思いますが、この潮流と無縁ではありません。例えば一定の耕作地で10人が栽培にかかわるとして、情報技術やセンサー技術等々が発展したからこそ、個々人の畑での作業時間を見える化できるようになりました。仮に畑での全作業時間のうち、2割がAさんによるものだと見える化できれば、その農作物の全生産量のうち、2割が、そのAさんの所有になるといった管理が可能です。

 また、情報技術の発展で、気温や湿度、食物の根張り状況等々、見える化できるところまで技術がありますので、散水量や、そのタイミング、施肥の量や施肥の種類等々、コンピューターが、人に助言することで、効率的で生産性が高い(収量が多くなる)栽培管理も可能になっています。

5) 昆虫食に見られる代替性の生産

 これまで食べていなかったものを、迫りくる食料危機に備え、食べれるようにしていこうというものに、「既知のものを美味しく食べる技術」が発展しています。コオロギに代表される昆虫食や、種々の爬虫類、種々の雑草、といった具合に、各分野で研究開発が進んでいます。未利用魚の利用も、その一環でしょう。先に紹介した神奈川県小坪漁港の現場でも、神奈川県水産試験場の協力を得て、未利用魚を美味しく食べる調理技術の開発が進んでいます。

市販されている昆虫食

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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