はじめに:「客単価を上げる方法」としてなぜ関連販売・セット販売が有効なのか?
「お店の売上をもっと伸ばしたいけれど、新規のお客様を集めるのは費用も時間もかかって大変……」 小規模事業者の方から、このようなお悩みをよくお聞きします。

売上を伸ばすための基本的な考え方に、「客数を増やす」か「客単価(お客様1人あたりの購入金額)を上げる」という2つのアプローチがあります。このうち、明日からでもすぐに始められ、かつ即効性が高いのが「客単価を上げる」ための施策です。
その中でも最も手軽で、お客様にも喜ばれる手法が「関連販売」や「セット販売」です。
この記事では、飲食店、食料品製造業、宿泊業、農業など、商品やサービスを提供するすべての皆様に向けて、専門用語を使わずに「関連販売・セット販売」の具体的なやり方や商品の選び方を分かりやすく解説します。
第1章:関連販売(クロスセル)・セット販売とは?(分かりやすい意味と心理学)
1)関連販売(クロスマーチャンダイジング / クロスセル)とは?
関連販売とは、メインとなる商品のすぐそばに、その商品と一緒に使うと便利なものや、相性の良い「関連商品」を並べて販売する方法です。専門用語では「クロスマーチャンダイジング(クロスMD)」や「クロスセル」とも呼ばれます。
例えば、スーパーマーケットのお肉売り場の横に「焼肉のたれ」が置いてあったり、お酒売り場に「おつまみのナッツ」が置いてあったりするのを見たことがあると思います。 「あ、これも買っておこう」という「ついで買い」を促し、お客様に「便利な購買体験」を提案する方法です。
2)セット販売とマーケティング心理学(ニューロマーケティング)
また、関連販売と似た手法に「セット販売」があります。これは、複数の商品をあらかじめ組み合わせて販売する方法です。
実は、このセット販売には「マーケティング心理学(脳科学の知見を活かして消費者の心理や行動を分析するニューロマーケティング)」が深く関わっています。人間にとって「お金を払う」という行為は、脳に心理的な負担(痛み)を感じさせるものです。しかし、何かを付属したり組み合わせたりして「相対的な割安感」を演出すると、この痛みが和らぎます。
例えば、単体で2万円のドライブレコーダーを買うのは少し迷いますが、300万円の新車に組み込まれてトータル302万円になっていた場合、単独で2万円を払うよりも「なんだかお得に感じる」「手間が省けていい」と感じてしまう現象です。セット販売は、こうした心理的な負担を減らし、スムーズなお買い物をサポートする効果があります。
第2章:【業種別】すぐ真似できる!関連販売が可能な業種と成功事例
「スーパーやコンビニならともかく、うちのような小さなビジネスでもできるの?」と思われるかもしれませんが、関連販売やセット販売は、規模や業種を問わず有効です。
パン屋、洋菓子屋、和菓子屋、お豆腐屋といった食料品専門店はもちろん、工夫次第であらゆる業種で実践できます。業種別の具体的な事例を見ていきましょう。
1)飲食店での事例(メニュー表でのペアリング提案)
「この地元産の豚肉を使ったソーセージには、こちらのクラフトビールが相性抜群です」と、メニュー表で料理と飲み物をセットで提案します。お客様が「どれにしようか」と迷う負担を減らし、より美味しい食事の体験(顧客価値)を提供できます。
2)食料品製造業での事例(展示会や直売所でのついで買い)
自社で作っているこだわりの加工肉(ハムやソーセージ)のすぐ隣に、一緒に食べると美味しい地元のマスタードや、お酒を一緒に陳列します。
3)宿泊業での事例(フロント横でのお土産セット販売)
旅館やホテルで、朝食にお出しして好評だった「こだわりの出汁茶漬け」を、高級感のあるパッケージに包んでチェックアウト時のフロント横で販売します。「あの美味しかった体験をご自宅でも」という提案は、立派な関連販売です。
4)農業での事例(生鮮品と加工品のセット販売)
直売所やオンラインショップで、新鮮なトマトと一緒に「自社製トマトジュース」をギフトセットにして販売したり、山芋の隣に「専用の出汁醤油」を置いて「これ一つで美味しいとろろご飯が完成します」とアピールしたりする手法です。
以上のように、お客様の「あったらいいな」「便利だな」という視点に立つことで、あらゆる業種で関連販売のアイデアは生まれてきます。
第3章:関連販売のメリットと注意点(デメリット)
関連販売(クロスセル)やセット販売を取り入れる最大のメリットは、ズバリ「客単価の向上」です。お客様1人あたりの買上点数が増えるため、新規集客にかけるコストを増やさなくても、自然と売上がアップします。
しかし、注意しなければならないデメリットもあります。
それは、「無関係なものを勧めると、押し売りのように見えてしまう」ということです。
例えば、こだわりの和菓子を買おうとしているお客様に、全く関係のない日用品を勧めたらどうでしょうか。「このお店は利益のことしか考えていないのかな?」と、お店やメイン商品のイメージを損ねてしまい、顧客の不満要因になってしまいます。
大切なのは、あくまで「顧客価値(お客様にとっての存在価値やメリット)」を高める提案であることです。お客様の手間を省いたり、より美味しい組み合わせを教えてあげたりと、「お客様に喜んでもらうための品揃え」という慎重な視点が必要です。
⇒顧客価値については、こちらの記事「【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」で丁寧に解説しています。
第4章:超重要!データで決める!関連販売商品の見つけ方・選び方(部分確率の活用)
「じゃあ、何を一緒に売ればいいの?」と迷ったときは、難しく考える必要はありません。高価なデータ分析ツール(POSシステムなど)がなくても、以下の4つのステップで簡単に見つけることができます。
ステップ①:日常の売れ行きから「目星」をつける
まずは、毎日の接客や売場を見ていて気づく「直感」が大切です。
「最近、アレとコレ、一緒に買っていくお客さんが多いな…?」
このちょっとした気づきが、売上アップの第一歩になります。
ステップ②:少量のデータを整理してみる(レシートの活用)
気になる組み合わせが見つかったら、1日分や数日分のレシートを使って、手書きでもエクセルでも良いので整理してみましょう。例えば、「ポテトチップス、ビール、チーズ、ウーロン茶」の売れ行きをレシート単位でチェックします。

ステップ③:確率を計算し判断する
整理したデータから「確率」を計算して出してみます。

ウーロン茶を買った人のうち、ポテトチップスも買った人は何%か?
もしウーロン茶を買う人が100%ポテトチップスも買っているなら、「ウーロン茶の横にポテトチップスの売場を作ろう」と判断できます。
ステップ④:さらに上級テクニック「部分確率」を利用した関連販売
ここからが、少し賢い「部分確率」という考え方です。
例えば、以下のようなデータが出たとします。
【A】ポテトチップスを買う人は、66.6%の確率でチーズを買っている。
【B】チーズを買う人は、50%の確率でポテトチップスを買っている。
一見同じように思えますが、視点を変えると確率に違いがあります。これを部分確率と言います。
この場合、確率が高い【A】の事実を採用します。つまり、「チーズ売場にポテトチップスを置く」のではなく、「ポテトチップス売場にチーズを寄せて置く」方が、ついで買いされる確率が高まる、と明確に判断できるのです。
一見難しそうに見えますが、実際にやってみるととても簡単です。小売店や飲食店の現場でも、「一度やってみよう!」ですぐに慣れて効果を実感できる手法です。
第5章:【Q&A】関連販売・セット販売に関するよくある質問
ここでは、小規模事業者様からよくいただくご質問にお答えします。
Q1. 関連販売とクロスセルの違いは何ですか?
A. 基本的に同じ意味で使われます。マーケティング用語で「クロスセル(Cross-selling)」と呼ばれるものを、より現場に即した分かりやすい言葉にしたものが「関連販売」や「ついで買い提案」です。どちらも客単価を上げるための有効な販売促進の手法です。
Q2. 飲食店で客単価を上げるには、どんなセット販売が良いですか?
A. お客様の「選ぶ手間」を減らし、食事の満足度を高めるセットがおすすめです。例えば「看板メニューのハンバーグ+相性抜群の赤ワイングラス」といったペアリング提案や、「食後の余韻を楽しむ自家製デザート+コーヒーセット」など、お客様の心理的な負担を軽くするメニュー表の工夫が効果的です。
Q3. 押し売りに思われないか心配です。上手な声かけ・案内のコツは?
A. 「売り込む」のではなく「情報としてお知らせする」スタンスが重要です。「こちらを買ってください」ではなく、「こちらの商品には、この調味料を合わせるとさらに美味しく召し上がれますよ」「今ならセットの方が〇〇円お得になりますが、いかがなさいますか?」と、あくまで選択権をお客様に委ねる形(マーケティング心理学を活用したアプローチ)をとると、押し売り感が出ません。
Q4. POSレジなどのデータ分析ツールがない小さな店舗・農家でも実践できますか?
A. はい、十分に実践可能です。第4章でご紹介したように、1日の終わりにレシートの束を見返したり、直売所での接客中にお客様の買い物カゴの中身を観察したりする「アナログな気づき」から、強力な関連販売のアイデアは生まれます。
Q5. 宿泊業やホテルでセット販売を取り入れるアイデアを教えてください。
A. 宿泊という「体験」を「モノ」に乗せて販売するのがコツです。例えば、夕食で提供した地酒や、朝食で好評だった地元農家のジャムなどを、チェックアウト時のフロント横(レジ横)で関連販売します。旅行の思い出という「価値」を持ち帰っていただく提案になります。
まとめ:お客様との「価値共創」を目指して
関連販売(クロスセル)やセット販売は、単に「お店の売上を上げるためのテクニック」ではありません。 お客様が気づいていなかった「美味しい組み合わせ」や「便利な使い方」を提案することで、お客様の満足度(顧客価値)をさらに高めるための素晴らしいコミュニケーションです。
初稿:2018年2月1日、加筆修正:2022年2月26日、2025年6月13日、2026年3月14日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。
近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













