毎日バイヤーに価格交渉ばかりして疲弊していませんか?
「今日もバイヤーに値引きを要求された」「どれだけ商品の良さを説明しても、結局は価格やCMの有無でしか判断されない」……。
食品メーカーや菓子・飲料メーカーでルート営業や新規開拓を担う皆様の中で、日々の商談に対して「営業職はきつい」「向いてないかもしれない」と悩みを抱えている方には、ぜひ、読んでいただきたい記事です。

はじめに(この記事の要約)
実は、当事務所で実施している営業研修やロールプレイングにおいて、最も人気があり、かつ劇的な効果を上げているノウハウがあります。それは、「商談のコツは、雑談9割・本題1割の関係性創りである」という法則です。
真面目に商品規格書や見積書を見せながら、一生懸命に価格交渉や導入のお願いをするだけでは、バイヤーの印象には残りません。行動心理学などの観点から見ても、結果を出すトップセールスほど「雑談」を戦略的に活用しています。
本記事では、食品・飲料メーカーで営業活動に従事する皆様に向けて、きつい営業活動を「やりがい」に変えるバイヤー商談のコツと具体的なトーク事例をわかりやすく解説します。
【この記事の要約】
・商談成功の鍵は「雑談9割」: 商品説明よりも、限られた時間で「自分自身をどう印象付けるか」が重要。
・行動心理学の応用: 人は思い出しやすいものを優先する「利用可能性ヒューリスティック」を活用し、バイヤーの記憶に残る存在になる。
・関係性構築の3ステップ: ①愚痴や課題に耳を傾ける、②プライベートの共通項で盛り上がる、③役立つ二次データや他店事例を提供する。
・本丸の商談: 事前に店舗巡回や陳列応援で信頼を稼いでおき、残り1割の時間で確実にYESを引き出す。
第1章 なぜ食品メーカーのバイヤー商談のコツは「雑談9割」なのか?
1)商談における「ありがちな失敗」とバイヤーの本音
小売店(食品スーパーやドラッグストアなど)の本部バイヤーは、毎日何人もの食品メーカーや問屋の営業マンから商談を受けています。提示される見積書には、商品名、卸価格の条件、希望する導入ロット、美しい商品画像が並んでいます。体裁こそ違えど、どのメーカーも「自社の商品がいかに美味しくて素晴らしいか」を同じように熱弁します。
こうなると、バイヤー側は「仕入れ価格が安いか」「大々的なテレビCMや販促キャンペーンがあるか」という非常に限られたスペックでしか判断できない状況に追い込まれてしまいます。
営業マン全員が「商品の売り込み」という同じ土俵で戦っている限り、会社の規模や資本力の差がそのまま結果に直結してしまい、現場の営業マンは「きつい」と感じるようになります。
2)「雑談9割・商談1割」がもたらす関係性構築の力
そこで必要になるのが、限られた商談時間の中で「どれだけバイヤーに自分自身を印象付けられるか」という視点です。
バイヤーも一人の人間です。毎日「買ってくれ」と要求してくる相手よりも、「この人と話していると役に立つ」「この担当者は自分の苦労を分かってくれる」と感じる相手を無意識に優遇します。商談の時間の9割を「バイヤーにとって居心地の良い有益な雑談」に費やし、最後の1割でスッと本題(商品導入の提案)を切り出す。これこそが、自社の商品を「その他大勢」から抜け出させる最強のコツなのです。
第2章 行動心理学で読み解く「雑談」の圧倒的な効果
「雑談が良いのは頭では分かるけれど、仕事中に世間話ばかりしていて大丈夫なのか?」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、雑談の効果は行動心理学やマーケティングの理論でも明確に裏付けられています。
1)利用可能性ヒューリスティック(想起のしやすさ)の活用
心理学に「利用可能性ヒューリスティック」という言葉があります。これは、人は意思決定を行う際、自分の記憶から「思い出しやすい情報(想起しやすいもの)」を無意識に優先して評価してしまうという心の働きを指します。
例えば、スーパーの棚割りを決める際、バイヤーの頭の中には数え切れないほどの商品候補があります。その時、真っ先に選ばれるのは「スペックが1番良かった商品」ではなく、「一番最近、楽しく会話をしたあの担当者の商品」や「日常的に顔を出し、関係性ができているメーカーの商品」である確率が非常に高いのです。
雑談を通じて強い印象を残すことは、バイヤーの脳内に自社商品の「検索順位(SEO)」を上位表示させることと同じ効果を持ちます。
2)単純接触効果と自己開示による「仲間意識」の醸成
また、商品とは無関係の雑談を交わすことで「単純接触効果(ザイオンス効果)」が高まり、警戒心が解けていきます。さらに、バイヤー自身の個人的な悩みや興味を引き出す(自己開示を促す)ことで、「単なる売り手と買い手」という対立構造から、「同じ課題に向き合うパートナー」へと関係性が劇的に変化します。
価値の共創(Value Co-creation)の観点からも、営業マンが一方的にモノを売りつけるのではなく、雑談を通じてバイヤーの抱える背景を深く理解し、一緒に売場を作っていく姿勢を示すことが、中長期的な売上アップに直結するのです。
⇒価値の共創はこちらの記事で学べます「【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方」
第3章 【具体例】バイヤーの心をつかむ3つの会話(雑談)テクニック
では、実際にどのような「雑談」を展開すればバイヤーの印象に残り、商談を有利に進められるのでしょうか。当事務所のコンサルタントも実践してきた、3つの具体的なテクニックと事例を紹介します。
1)バイヤーの愚痴や課題に耳を傾け、ストレスを軽減する
バイヤーも組織の中で働く会社員であり、日々の業務や人間関係で大きなストレスを抱えています。あえて自社の商品とは無関係な「愚痴や悩み」に耳を傾けることで、「この営業担当者は自分のストレスを軽減してくれる有益な人物だ」と印象付けることができます。
【会話の事例】
。売上の悩み:「最近、担当されているカテゴリー全体の動きが少し鈍いとおっしゃっていましたが、その後いかがですか?」と寄り添う。
・社内の愚痴:「〇〇部長、相変わらず数字に厳しいですか?バイヤーも板挟みで本当に大変ですよね」と共感を示す。
ポイントは、解決策を押し付けるのではなく、「良き理解者として話を聴く」ことです。これだけでバイヤーにとって非常に居心地の良い時間となります。
2)趣味やプライベートの共通項を見つける
バイヤーのプライベートな一面を引き出し、その内容で盛り上がる努力をしましょう。「自分と同じ価値観を持っている」と感じさせることができれば、単なる取引先から「仲間」へと一気に距離が縮まります。
【会話の事例】
・趣味の話:「週末の競馬、荒れましたね!バイヤーの予想はどうでしたか?」
・エンタメの話:「お子さんが『ドラゴンボール』にハマっているとおっしゃっていましたが、最近の映画は一緒に見に行かれましたか?」
・家族の悩み:「最近、奥様から『早く帰ってきて』と怒られると言っていましたが、昨日は無事に帰れましたか?」「娘さんの大学受験、そろそろ大詰めですね」
こうしたプライベートな話題は、相手が自己開示してくれた情報をしっかりメモしておき、次回の訪問時に必ず触れることが信頼関係構築のコツです。
3)役立つ二次データや他店情報(相乗積への貢献)を提供する
バイヤーは常に「他店がどうやって売上を伸ばしているのか」「競合スーパーの動向」を気にしています。自社商品の売り込みではなく、「バイヤーの担当カテゴリー全体の売上(相乗積)が上がるような有益な情報」を分析して提供しましょう。
【会話の事例】
・他店での成功事例:「実は〇〇スーパーさんで、この商品(※自社以外の商品でも可)がすごく動いているんです。御社のこの売場に組み込めば、カテゴリー全体の客単価が上がるかもしれません」
・トレンド情報:「地方で今、こういうコンセプトの食品スーパーが人気を集めているそうです。御社の店舗でも応用できそうなアイデアですよね」
「この担当者と付き合っていると、仕事に役立つ情報がタダで手に入る」と記憶させることができれば、商談のアポイントも格段に取りやすくなります。
第4章 残り1割の「本丸商談」で確実にYESを引き出す提案法
雑談を通じて「関係性(居心地の良さ・信頼)」を十分に構築できたら、残りの1割の時間でいよいよ本丸の商談(自社商品の導入依頼など)に入ります。
1)条件提示だけでなく「今後の有意義な関係性」を演出する
本題を切り出す際は、単に「この商品を買ってください」とお願いするのではなく、「バイヤーの売上目標達成にどう貢献できるか」という視点で提案します。
「前年を超える売上を作れる見込みがあること」を伝え、そのための条件(年間契約や値差補填など)の優位性を簡潔に提示します。そして何より重要なのは、「当社の商品を取り入れていただければ、今後さらに有意義で強力なパートナーシップが築けますよ」という未来のビジョンをニュアンスとして演出することです。雑談で温まった空気が後押しとなり、バイヤーも前向きに検討しやすくなります。
2)日々の店舗巡回・陳列応援を商談の最大の武器にする
また、本部のバイヤー商談を有利に進めるためには、日々の「店舗巡回(店回り)」や「陳列応援・販売応援」の実績が非常に強力なカードになります。
「実は昨日、〇〇店の売場担当者様のお手伝いをしてきまして、現場でもこの新商品は絶対に売れると太鼓判をいただきました」といった現場のリアルな声(一次情報)を添えることで、提案の説得力は跳ね上がります。日常の現場での関係性が構築できていれば、本部の商談は圧倒的に楽になるのです。
⇒小売店の現場での具体的な立ち回りやコツについては、こちらの記事「【完全版】食品メーカー営業の仕事内容とは?小売店(スーパー)でのルート営業と商談のコツ」もぜひ参考にしてください。
第5章 【Q&A】食品・飲料メーカーの営業や商談に関するよくある質問
最後に、食品メーカーや卸売業の営業担当者様からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 食品メーカーの営業は「きつい」「やめとけ」と言われることが多いですが、本当ですか?
A. 飛び込み営業や単純な価格交渉だけを繰り返していると、体力・精神的にも「きつい」と感じやすいのは事実です。しかし、本記事で紹介した「雑談9割」の法則や、バイヤーの課題解決に寄り添う提案スキルを身につければ、取引先から最も頼りにされる存在となり、大きな「やりがい」と成果を得られる魅力的な職種です。
Q. 初対面のバイヤーとの商談で「雑談」が苦手です。何を話せばいいですか?
A. 最初からプライベートな話題に踏み込む必要はありません。まずは「売場の観察」から得た情報を話題にしましょう。「〇〇店の〇〇コーナー、とても見やすくて素晴らしいですね」「最近、お客様の層に変化はありますか?」など、相手の仕事(お店)に関心を示す質問から入ると、自然と会話が広がります。
Q. ルート営業で、マンネリ化せずにバイヤーや担当者に気に入られるコツはありますか?
A. 「会うたびに1つ、相手に役立つ情報(他店事例や業界トレンドなど)を手渡すこと」です。単なる御用聞きになるのではなく、「この人が来ると有益な情報が得られる」というポジションを確立することが、ルート営業成功の最大のコツです。
Q. 商談に持参すべき必須の持ち物は何ですか?
A. 基本的な持ち物として、見積書(小売業指定または自社フォーマット)、商品規格書、商品カタログ・パンフレット、広告宣伝の計画書が挙げられます。さらに、商談を補足する「市場のデータ(二次データ)」や「他店での成功事例(一次データ)」の資料を持参すると、提案の説得力が格段に増します。
Q. 食品の営業職には、どのような人が向いていますか?
A. 「聞き上手な人」や「相手の立場に立って物事を考えられる人」が非常に向いています。自社商品を雄弁に語るプレゼン能力よりも、バイヤーの愚痴や課題に耳を傾け、共感し、一緒に解決策を探れる「関係性構築能力」が高い人ほど、長期的な営業成績を伸ばす傾向にあります。
初稿:2017年11月11日 加筆修正:2024年8月10日、2026年3月11日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

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近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













