消費者無知を学習させる「食のマーケティング」の必要性

 食品にかかわる事業者が、マーケティング活動を進めるにあたって、頻繁に課題にあがる「食の消費と生産の分離」について、今回は少し触れたいと思います。

 生産と消費の分離とは、消費する側が、誰が作っているのか(生産している、収穫している等々)がわからない、生産する側が、結局、誰が食べているのかがわからないという状況を指します。

 高度経済成長期の中、量産体制が進み、この「生産と消費の分離」は消費社会の中で、大きな社会課題として定着します。なぜ課題かと言いますと、次のような言葉で代表されます。

 「主婦の中には、魚の種類を見分けることができない」

 「家庭菜園で栽培していて、発芽して間もなく、どれが雑草で、どれが栽培している野菜のものかが、わからない」

 以上のようなことは、まだ良い方で、ひどい揶揄だと、次のように言われることもあります。

 「魚は切り身で泳いでいると本気で思っているのか?」

 「胡瓜のように、弦に茄子が出来ると思っているのか?」

 これらの現象は、極端な説明かもしれませんが、多かれ少なかれ、実際に消費者に見られる現象で、どのように栽培されているか、どのように収穫しているか、どのように水揚げしているか、どのような生態なのか、どの季節に収穫できるものなのか等々を、知らなさすぎるから起こる現象とも言えます。

 このような環境下で、事業者は、自らの商品の優位性をPRして、販売していかなければならないわけですが、その優位性の基礎となる、食材への知識が、欠けている消費者が多いといったことを前提に、マーケティング活動を計画して、実行しなければならないという時代なのです。

 何か商品があると話がわかりやすいので『しらす』を題材に進めましょう。

さて、読者の皆さんは、各々がしらすを販売している事業者だと思って読み進めてください。
一般の御客様に『「しらす」って何色?』
このように尋ねると、多くの方々は「生は透明」

「釜あげ:湯通ししたものは白色」と回答されます。

どうやら、著者が生まれる少し前から、「しらす」は、このようにイメージされてきたようです。

結果、お腹が赤いしらすを販売時に見るものなら、「何?これ?大丈夫?」と不安視される消費者の方々が多いのが現状です。

 つまり、『生の「しらす」は透明なものだ!』と思い込みをしている多くの消費者の方々が、世の中に沢山存在するために(無知な方々が多いために)、多くのしらすの事業者が、腹が赤い「しらす」を食品スーパーの店頭や飲食店で堂々と販売しないのです。

 従って多くの事業者は、「赤い!といったようなクレームをいちいち言われたくない」という気持ちが働き、「漂白剤でこの赤を漂白してしまおう!」という発想になっていくのです。

 つまり、しらす事業者が漂白してしまう背景は、我々消費者の無知が、そのようにさせていると言っても過言では無いわけです。

 では「そもそもしらすのお腹が赤い理由は何故?」と疑問がわいてきますが、これには正当な理由があります。しらすは生きている環境で食するプランクトンの色見が体にそのまま現れます。しらすのお腹が赤いのは、エビ系のプランクトンを多く摂取しているからです。そのエビ系プランクトンに含まれる色素成分「アスタキサンチン」がお腹の部分にたまるので、赤く見えるのです。無論、エビ系プランクトンには旨み成分が多く含まれていますので、透明、白色のしらすより数倍の旨み成分が含まれていると言われています。

 容器包装に入れられた加工食品は原則、使用したすべての添加物を、容器包装の見やすい場所に記載しなければなりません。JAS法では、一括表示の原材料欄に、食品添加物以外の原材料と食品添加物に区分し、重量の割合の多い順に、使用したすべての原材料を記載することと決められています。しかしながら以下の場合は、表示の必要は無いことになっています。


・栄養強化の目的で使用されるもの
・加工助剤
・キャリーオーバー(加工に使用した原材料からの持ち込み)

 では流通している多くの『しらす』なのですが、裏面表示を確認していくと、全部って言っても良いほど漂白剤に関する表示は一切ありません。これは、しらすに使用する塩素系の漂白剤は加工工程中に分解、さらには除去されるため表示されていないということなります。

 流通しているしらす全てが漂白されている訳ではありませんが、上記の理由で表示されずに流通している物も多々あります。つまり、先に記載した「加工助剤に該当する為」、表示されていないのです。

 著者が伝えたいのは、このような無知な消費者に囲まれている事業環境の中で『本物のしらす』をどのようにマーケティングを駆使して販売していけば良いのかを一緒に考えるために問題提起したのです。例えばあなたが『しらす事業者』だとして、本物のしらすを次のように定義したとしましょう。

『ウチは漂白剤は使っていません。水揚げしたそのままが本物のしらすだからです。本物のしらすは多様な色味(食べているエサの影響に応じて)を帯びています』

 さて、漂白剤を使う事業者の心理はかねがね次のようでは無いでしょうか。
『お客様がいちいちうるさいので、漂白しておけばクレームにもならないし。。』

 このような事業者の方々は直球で言うと『お客様とのコミュニケーション(マーケティング)を放棄』していると言えます。

 マーケティングは『何か持っているモノやコトを、何らかのコミュニケーションにより、対価であるモノやコトと交換する活動』です。このように定義することが一般的だとすると、コミュニケーションを面倒臭いと考えて、科学的処理で『消費者のイメージに添う』加工をしている事象者は、マーケティング活動を諦めている側面もあると言えます。

 ただ、そのようなことになっている背景は、消費者の無知にあるのです。

 しかしながら、近年の消費者はインターネット検索等で賢くなっています。ちょうど情勢が追い付いてきたのです。今こそ、面倒くさがらずに、素材の良さを「そのまま:真摯に」伝える努力も必要なのでは無いでしょうか。

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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