1.飲食・食品業界の機能性表示の実情
2015年にスタートした機能性表示食品制度は、健康効果を訴求することが「事業者の責任」で可能になり、表示できる制度です。皆さんがよく買い物に行く食品スーパーやドラッグストアーの売場をご覧いただくと、大手を中心に、その制度を利用した飲料、加工食品、御菓子などが溢れています。
そんな中にあって、地方ではそこそこ頑張っているパン、納豆、牛乳、ヨーグルト、米菓、チョコレート菓子等々の種々の食品メーカーが、なかなか、そのステップに駒を進めれないといった点が、支援先で目につきます。

事務所の考えとして、この制度を利用した表示は、必要なことと考えていませんが、消費者に対して、何かしらの訴求で「売行きが変わるものなら、取り組んでみたい!」といった声が多いのも事実です。
そこで、どういった手続きが必要で、どういった手順で機能性表示食品が実現できるのか、あるいは、機能性表示食品にしなくても、何らかの対応ができないものなのか、について説明していきます。
2.機能性食品表示の届出・概要・留意点
機能性食品表示を実施したい場合は、消費者庁の届出システムを利用して、インターネットで届出をしなければなりません。その際に認められた場合のみ、ルールに従った表示が可能になります。
▶安全性について
インターネットで届出を登録する際に、その届出をしようとする食品について、類似でも構わないので、喫食実績で、安全性が十分に確認されているかを説明する書類が必要です。
・2次情報が存在する場合
届出をしようとする食品又は機能性関与成分について、公的機関のデータベース、民間機関や研究者等が調査・作成した2次情報から情報を収集できる場合は、これらを引用します。
・2次情報が無い場合の安全性試験の実施による安全性の評価
届出をしようとする食品又は機能性関与成分について、以下の準備が事前に必要です。
⇒in vitro 試験及び in vivo 試験により安全性が十分に確認できたか。
⇒臨床試験(ヒト試験)により安全性が十分に確認できたか。
なお、ここで示します「in vitro 試験及び in vivo 試験」の概要は以下の通りです。
(in vitro(イン・ビトロ)試験とは)
体内と同様の環境を人工的に作り出し、薬物の反応や細胞の働きなどを調べる試験です。試験管や培養器などの試験室で、ヒトや動物の組織を用いて行います。
(in vivo(イン・ビボ)試験とは)
非臨床試験(前臨床試験)において用います。ヒトや動物の体内に直接被験物質を投与して、生体内や細胞内での反応を調べる試験です。
▶機能性について
表示しようとする機能性の科学的根拠を説明する必要があります。その際、次のような資料が必要です。
⇒最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)
⇒最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビュー
▶生産・製造及び品質管理に係わる事項について
この事項は、その実現のための組織や手続きの体制、その管理のための食品の分析や保存方法、文書や記録について説明が必要になります。
▶健康被害に係わる事項について
もしも、健康被害が会社に顧客から寄せられた場合は、速やかな対宇王が必要になりますが、その際の手続きや組織体制、情報収集の在り方等、説明が必要になります。
*以上の記事(2.機能性食品表示の届出・概要・留意点)は、機能性表示食品の届出等に関するマニュアル(制定 令和6年8月 30 日:消食表第 775 号)を参照している。
3.自ら機能性表示が出来ないものの第三者を頼る場合
地方の小規模な食品メーカーで、乳酸菌効果(例えば お腹の調子を整えます)を訴求できる可能性が高い商品が過去に存在しました。結局、その乳酸菌は大手に渡り、大手が上手く利用している事実を見て、とても残念だなと思うことがあります。
そんな反省から、支援の現場では、以下に示す手段で何とか実現するように働きかけるようになりました。個人や小規模事業者の方は、機能性表示食品の届出で、必要となる書類を収集するために、どれかアプローチできる方法が無いか、検討してみることをおススメします。
■経営者自身が大学卒業者
ご自身の母校に、生物、発酵、バイオ等々の学部があれば、直接相談してみる
■社員が居る場合
社員の母校に、生物、発酵、バイオ等々の学部があれば、直接相談してみる
■個人の場合
ご自身の母校や友人知人の母校に、生物、発酵、バイオ等々の学部があれば、直接相談してみる
実際、大抵は、このアクセスで時間は掛かる場合があっても、学生の卒業論文等に位置付けてもらうなど、実現することが多かったです。ダメ元でトライしてみてはいかがでしょうか。
そもそも、この機能性表示食品の制度ですが、事業者が表示したい「健康効果」や「働き」を証明する届け出書類を、消費者庁に提出すれば良いのです。その際、課題になるのが証明する書類、つまり、臨床試験、成分文献調査、既存の学術論文の調査結果の収集です。
逆に言うと、これらの届け出等が叶えば、健康効果等々を食品に表示し、PRすることができるのです。ある意味、単純なカラクリなのです。
一方、そのあてが現在無い、あるいはそれまでの間も、何かしらのPRがしたい、ということであれば、次のような取り組みも可能です。
4.部分最適表示による方法(事実を表示すること)
事例で説明した方が早いので支援先の過去の事例で紹介します。玄米で揚げたお菓子があります。
素材が玄米ですので、もちろん、カロリー、それから鉄分も豊富なわけです。原材料は玄米、油、塩と至ってシンプルでした。たとえば日本の推奨する栄養摂取量と、同社商品の位置づけを調べると次のことが言えます。
⇒お茶碗1杯のご飯のカロリーの1/2
⇒鉄分1日摂取目安の1/6
ご理解いただけますか。つまり「たとえば1日の食生活の推奨栄養摂取量の中で、自社の商品が、どの程度の役割を担うのかを表記する方法」です。消費者の目線で全体を俯瞰し、その上で自社の商品の最適な位置づけを探ることで、事実を上手に「健康視点」でPRできるのです。
初稿:2019年9月11日 加筆修正:2025年3月5日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。
近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。