今回は、飲食店がマーケティング活動で利用できるアンカリング効果について紹介します。活用法は種々ありますが、この回は、メニュー表や商品(メニュー)ミックスで、どう活用するかについて紹介します。
念のため、アンカリング効果とは、行動経済学・心理学で扱われる心理効果の1つで、人が五感から情報を受け取る際、認知バイアス(利用可能性ヒューリスティック)によって、その後の判断(意志決定)が、影響を受けることを指します。
認知バイアスについては以前の記事を御覧ください ⇒ こちらをクリック
具体的な支援先の事例から説明しましょう。下画像は神奈川県逗子市に所在する「ON」という飲食店のメニュー表です。
例えば、最上段に足利マール牛を使ったランチメニューが3点、2800円で並んでいます。これがアンカーになります。下記画像は順に、足利マール牛のローストビーフと炭火焼になります。
さて、アンカー(Anchor)という言葉ですが、これは錨によって船を留めておくものですね。船が「その場」にとどまりたい時に使用し、海底につなぎ止めておくものです。
船は、その固定された場所を基準に、移動範囲が限られてしまうものですよね。その限られてしまう(制限される)様子が、意志決定の際に、最初に五感で認識した基準から、離れられなくなってしまうことに似ているとして、名づけられたようです。
上記のメニュー表においては、2800円という金額が目に飛び込んでくることでしょう。日常1000円以内でランチを食しているお客様なら、尚更です。
しかしながら、最初に得た情報が2800円であったばっかりに、これに気を取られ、次に並んでいるサラダランチの1700円、1900円、1800円あたりが安く感じてしまうものなのです。
従って、日常1000円以内でランチを食している消費者ですら、アンカーの2800円と比較し、リーズナブルなもの(価格の割に高品質)として注文してしまうものです。
飲食店においては、このお店で言うところの「サラダランチ」を「どのように充実させるかがポイント」になります。何故なら、1番注文が多いメニュー群として育てることが可能なため、例えば、利益率の良いメニューを充実すれば、お店全体の収益性が改善する等、仕組むことが可能になるからです。
久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)
加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。
講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。
2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。
近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。
主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。