飲食店や食品メーカーの価格感度分析の手順と事例

 飲食店がメニュー表で価格を検討する際、食品メーカーが開発した新商品に価格を検討する際、様々な場面で、価格をどのように決めれば良いか(値付けをどう考えれば良いか)、悩むものです。

 このような時に役立つ「価格設定(決定)」のアプローチの1つが「価格感度分析」です。事例と共に、説明していきますね。

目次
1.価格感度分析とは(PSM分析とは)
2.価格感度分析実施のためのアンケート(質問票)の内容
3.回答結果を集計する
4.回答結果の集計をグラフで表現する
5.グラフから適切な価格を解釈して読み取る

1.価格感度分析とは(PSM分析とは)

 ある商品やサービスについて,価格に関する4つの質問を顧客等に投げかけることで、上限価格(最高価格)、妥協価格、理想価格、下限価格(最低品質保証価格)を導き出す分析手法を指します。たった4つの質問で、価格に対する消費者の感度を分析することができるため、飲食店のメニューの価格の設定や、食品メーカー等の商品の値付けの場面で、広く利用されています。

 なおPSMとは、Price Sensitivity Measurement(価格感度測定)の略になります。

・上限価格(最高価格)とは
 後述するグラフの中で、「高すぎて買わない」のグラフと「安いと思う」のグラフが交わる価格ポイントを指します。この価格は、「これ以上高く値付けをすると,誰も買ってくれなくなる」というポイントです。「最高級の素材を使った御菓子をお歳暮として商品化した!」「最高級の豚肉と希少な在来大豆を使った味噌の味噌漬け」といったように、高級品、希少品、といった高付加価値を意識した商品の値付けで、参考にすることが多いです。概ね、最適な成果(売行き)に繋がります。

 ここで提示する価格は、その価格そのものが「今までのものと、ひと味もふた味も異なりますよ!」という主張をしてくれる一方、「ちょっと頑張れば手が届くかも!」という心理的な価格になることが多いです。

 販売する側にとって(飲食店や食品メーカーにとって)は、最も利益率が高い値付け(価格)ということになります。

・妥協価格とは
 「高いと思う」のグラフと「安いと思う」のグラフが交わる価格ポイントです。高いと思い始める価格と、安いと思い始める価格は,顧客(消費者)が比較対象としての想定商品・サービスを念頭に感じる「心理的な値ごろ感」です。つまり、その交点が、「比較対象を念頭において、妥協できる価格」と考えられます。
 1,000円の霜降り松坂牛 A5等級200gは、知っている方なら誰が見ても安いと思います。しかしながら1,000円のキャンディー1粒(直径1.5センチ)は、誰が見ても高いと思うでしょう。110円~160円の缶珈琲は、量次第で適切と思うものです。

 人は「このジャンルの商品ならこれくらいの価格」という心理的な基準があります。PSM分析では、これを妥協価格と呼んでいます。トップシェアの商品の価格と限りなく近い線に収まるのが普通です。それは、多くの方の印象に深く、トップシェアの商品やサービスの価格が根付いているからです。

・理想価格とは
 「高すぎて買わない」のグラフと「安すぎて買わない」のグラフが交わる価格ポイントです。高すぎて買えないと思い始める価格と,安すぎて品質に問題があるのではないかと思い始める価格は、どちらも購買に否定的要素の心理が働いた価格を示しています。この交点は,購買に否定的な意見を持つ人が
一番少ない価格だということを表しており、顧客(消費者)の最も多くの人が、買う可能性がある価格ポイントです。
 多くの場合,妥協価格より若干安いところに値付けは落ち着きます。この価格に設定すれば,販売数量と利益額が最も良い形でバランスが取れるのが特徴です。ただ、現実的には製造コストの問題で,理想価格に設定することが難しい場合が多いのが難点です。

・下限価格(最低品質保証価格)とは
 「安すぎて買わない」のグラフと「高いと思う」のグラフが交わる価格ポイントです。これ以上安くすると消費者が「品質が悪いのではないか」と疑い始める価格ポイントです。市場に早く浸透させたい(普及させたい)といった場合や,特売や目玉商品の価格を検討する際に、参考にします。この価格だと,販売数量は増えますが利益は大きくなりにくいことに注意が必要です。

・価格設定の勘所とは(値付けのポイント)
 妥協価格から理想価格の間を「適正価格帯」と言い,上限価格(最高価格)から下限価格(最低品質保証価格)の間を「受容価格帯」を言います。商品の価格を設定する場合は,できれば適正価格帯内で設定し,それが困難な場合でも,最低限,受容価格帯内で設定すると良いでしょう。

2.価格感度分析実施のためのアンケート(質問票)の内容

 アンケート(質問票)では、以下の4つの主旨の質問を設定するようにします。***には商品名やサービス名が入ります。今回、以下に紹介する事例は「お歳暮の御菓子」の値段を検討する際に実際に実施したものを使って説明していきます。

≪質問:設問≫

Q1. ***は、いくらぐらいから「高い」と思いますか。

Q2. ***は、いくらぐらいから「安い」と思いますか。

Q3. ***は、いくらぐらいから「高すぎて買えない」と思いますか。

Q4. ***は、いくらぐらいから「安すぎて品質が疑わしい」と思いますか。

3.回答結果を集計する

 集計は、下記の画像を参考にしてください。各質問番号を行、列には価格を明示し、その回答人数をマスに埋めて行きましょう。

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 その上で、下記画像のように、累積の構成比で、まとめ直すことが必要です。

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 構成比でまとめ直すコツは、「高い」が含まれる設問、つまりQ1 Q3は、価格が高くなるにつれ、累積構成比が高くなるように。「安い」が含まれる設問、つまりQ2 Q4は、価格が安くなるにつれ、累積構成比が高くなるようにします。

4.回答結果の集計をグラフで表現する

 3で整理した「累積した表」を、下記画像のようにグラフで表します。

5.グラフから適切な価格を解釈して読み取る

 4のようなグラフの場合、下表のように解釈することが出来ます。

⑴と⑷下限価格
⑶と⑵上限価格
⑴と⑵理想価格(最適価格)
⑶と⑷妥協価格

 つまり、この事例のお歳暮の御菓子は、8800円前後の値付けを目指せないかと検討することとなりました。

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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