飲食店のディナータイムの集客や販促で役立つマーケティング心理学

今回は、飲食店のディナー・タイムの集客や販促で、少し知っておくと役に立つマーケティング視点からの『心理学』(マーケティング心理学)の概念や施策のアイデアを紹介します。

ディナーは「機能(空腹満たし)」よりも「情緒(楽しみ、癒やし、交流)」が重視されます。滞在時間を延ばし、単価を上げ、記憶に残すための心理学アプローチです。

ただし、ここに示すアイデアは、あくまで、支援先の現場で、何かしらの背景や情景を浮かべて、考えたものなので、そのまま皆様のお店に利用しても、まったく効果を感じないこともあるかと思います。

そこで、示すアイデアや施策には、その根拠となる学術的な論文や書籍などを紹介しますので、その論点を学んだ上で、皆様の御店ならではの施策に落とし込んでいただければと思います。

なお、施策やアイデアは、小規模事業者でも導入しやすい、SNS(Instagram/LINE)、店頭ボード、チラシ、メニュー表の工夫を中心とした施策です。

① 保有効果(ボトルキープ・マイグラス)

アイデア: 常連客向けに「マイ箸」や「ボトルキープ」制度を導入し、棚に名前を書いて並べる。

説明: 一度自分のものになった対象には、客観的価値以上の愛着を感じる心理です。「自分のお酒がある店」には帰属意識が生まれ、他店への流出を防ぎます。

参考文献: Kahneman, D., Knetsch, J. L., & Thaler, R. H. (1990). Experimental Tests of the Endowment Effect and the Coase Theorem. Journal of Political Economy, 98(6), 1325–1348.

② 暗順応と照明効果(雰囲気作り)

アイデア: ディナータイムは照明の照度を落とし、各テーブルにキャンドルやスポットライトを当てる。

説明: 暗い環境では、人は他者との心理的距離が近づきやすく、リラックスして本音を話しやすくなります(暗闇効果)。滞在時間を延ばし、アルコールの注文を促進します。

参考文献: Gergen, K. J., Gergen, M. M., & Barton, W. H. (1973). Deviance in the dark. Psychology Today, 7(5), 129–130.

③ メンタル・アカウンティング(心理的財布)

アイデア: メニュー名を「夕食セット」ではなく、「自分へのご褒美コース」「お疲れ様セット」とする。

説明: 人は「日々の食費」と「娯楽・ご褒美費」を別の心理的財布で管理しています。「ご褒美」と枠組みを変えることで、日常の食費予算のタガを外し、高単価注文を促します。

参考文献: Thaler, R. H. (1999). Mental accounting matters. Journal of Behavioral Decision Making, 12(3), 183–206.

④ ストーリーテリング(物語の付与)

アイデア: ワインや食材の説明に「このワインは、〇〇地方の小さな村で、夫婦だけで作られており…」という物語を添える。

説明: 単なるスペック情報よりも、物語(ストーリー)の方が脳に記憶されやすく、感情移入による付加価値を感じさせます。

参考文献: Escalas, J. E. (2004). Narrative Processing: Building Consumer Connections to Brands. Journal of Consumer Psychology, 14(1-2), 168–180.

⑤ 希少性と緊急性(今夜だけの特別)

アイデア: テーブルを回って「今朝獲れたばかりの鮮魚が入りました。3皿だけご用意できますがいかがですか?」と口頭で勧める。

説明: メニューに載っていない裏メニュー的提案と数量限定性が、特別感と「今頼まないと損」という心理を刺激します。

参考文献: Cialdini, R. B. (2009). Influence: Science and Practice. Pearson Education.

⑥ 返報性の原理(アミューズの質)

アイデア: 席料(お通し)を取る場合、価格以上のクオリティの「シェフからのプレゼント」として最初の一品を提供する。

説明: 最初に予期せぬ喜び(高品質な前菜)を与えることで、「この店は信頼できる」「もっと注文しよう」という返報性を引き出します。

参考文献: Strohmetz, D. B., Rind, B., Fisher, R., & Lynn, M. (2002). Sweetening the Till: The Use of Candy to Increase Restaurant Tipping. Journal of Applied Social Psychology, 32(2), 300–309.

⑦ ウィンザー効果(第三者の声)

アイデア: メニューブックに、常連客の手書きコメントや「お客様の感想」を掲載しておすすめする。

説明: 店側が直接売り込むよりも、第三者(他の客)の評価の方が信憑性が高いと感じる心理です。高単価メニューの注文ハードルを下げます。

参考文献: Kaplan, M. F. (1976). Measurement of conviction holding: The effects of mode of presentation and source credibility. Journal of Social Psychology, 98(2), 295–296.

⑧ サンクコスト効果(会費制・前売り)

アイデア: 「プレミアム会員(年会費制)」や「ディナーチケット」を販売し、会員限定の裏メニューを提供する。

説明: すでに支払ったコスト(会費)を取り戻そうとする心理が働き、他店に行かず、その店に通い続ける動機になります。

参考文献: Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140.

⑨ 初頭効果(第一印象)

アイデア: 入店時の挨拶を徹底し、ウェルカムドリンクや温かいおしぼりを即座に出す。

説明: 最初の印象がその後の評価全体に影響を与えます。出迎えの良さが、その後の料理提供が多少遅れても許容される土壌を作ります。

参考文献: Asch, S. E. (1946). Forming impressions of personality. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 41(3), 258–290.

⑩ おとり効果(ワインリスト)

アイデア: ハウスワイン(500円)と高級ワイン(1500円)の間に、少し高めのワイン(1200円)を入れるのではなく、超高級ワイン(5000円)をリストの一番上に載せる。

説明: 5000円を見た後では、1500円や2000円のワインが安く感じられ、心理的な抵抗感が下がります(参照価格の操作)。

参考文献: Ariely, D. (2008). Predictably Irrational. HarperCollins.

⑪ ザイアンスの法則(SNSでの夜の顔)

アイデア: ランチとはトーンを変え、夜の店内のムーディーな写真や、調理風景の動画を夕方17時にSNS投稿する。

説明: 「仕事終わりの一杯」をイメージさせる接触を、意思決定の直前(夕方)に行うことで、選択肢に入り込みます。

参考文献: Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2, Pt.2), 1–27.

⑫ ノスタルジア(郷愁)

アイデア: 「おばあちゃんの味」「昭和レトロなナポリタン」など、懐かしさを感じるメニューやBGMを取り入れる。

説明: 懐かしさは社会的つながりや肯定的な感情を喚起します。特に夜は感情的になりやすいため、心地よい記憶と店をリンクさせます。

参考文献: Wildschut, T., Sedikides, C., Arndt, J., & Routledge, C. (2006). Nostalgia: Content, Triggers, Functions. Journal of Personality and Social Psychology, 91(5), 975–993.

⑬ コンコルド効果(飲み放題の延長)

アイデア: 飲み放題終了10分前に、「お一人様500円で30分延長できますが、いかがですか?」と提案する。

説明: ここまで楽しんだ時間を終わらせるのが惜しい(もったいない)という心理を利用し、少額の追加で滞在を延ばさせ、結果的にフードの追加注文も誘発します。

参考文献: Dawkins, R., & Brockmann, H. J. (1980). Do digger wasps commit the Concorde fallacy?. Animal Behaviour, 28(3), 892–896.

⑭ 一貫性の原理(予約コミットメント)

アイデア: 電話予約の際に、「もし変更がある場合は、前日までにご連絡いただけますか?」と問いかけ、「はい」と言ってもらう。

説明: 相手に一度口頭で承諾させることで、ドタキャン(No-Show)を心理的に抑制します。

参考文献: Cialdini, R. B. (2001). Influence: Science and Practice. Allyn and Bacon.

⑮ 類似性の法則(スタッフとの会話)

アイデア: スタッフが客との会話で「私もそれ好きなんです」「私も〇〇出身です」と共通点を見つけて伝える教育をする。

説明: 自分と似ている人には好意や信頼を抱きやすい心理です。スタッフへの好意が店への再訪意欲(ファン化)に直結します。

参考文献: Byrne, D. (1971). The Attraction Paradigm. Academic Press.

⑯ 選択のパラドックス回避(おまかせコース)

アイデア: メニュー選びに迷っている客には、「シェフのおすすめコースなら、当店の美味しいとこ取りができます」とコースへ誘導する。

説明: ディナーメニューは多すぎて選ぶのが疲れる場合があります。「おまかせ」で責任を委譲させることで、客のストレスを減らし、店側は在庫管理しやすくなります。

参考文献: Schwartz, B. (2004). The Paradox of Choice: Why More Is Less. Harper Perennial.

⑰ ピーク・エンドの法則(サプライズ)

アイデア: 誕生日や記念日の客に、頼まれていなくても「お店からです」と小さな花火付きデザートや写真をプレゼントする。

説明: 予期せぬポジティブな「エンド(終わり)」の体験は、強烈な記憶として残ります。SNSでの拡散(シェア)も期待できます。

参考文献: Fredrickson, B. L. (2000). Extracting meaning from past affective experiences: The importance of peaks, ends, and specific affect. Cognition & Emotion, 14(4), 577–606.

⑱ フレーミング(セットメニューのお得感)

アイデア: 「ビールと唐揚げと枝豆で1500円」を「お疲れ様セット 1000円」として19時まで提供する(ハッピーアワー)。

説明: 早い時間の集客が目的です。「定価からの割引」というフレームで提示することで、早い時間に来店する合理的な理由を与えます。

参考文献: Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). The framing of decisions and the psychology of choice. Science, 211(4481), 453–458.

⑲ カクテルパーティー効果(BGMの音量)

アイデア: 満席時はBGMのテンポを上げ、音量をわずかに上げる。

説明: 周囲の雑音レベルが上がると、目の前の会話に集中しようとして声が大きくなり、活気(賑わい)が生まれます。また、テンポの速い音楽は咀嚼や飲酒のスピードを早め、回転率を上げる効果もあります。

参考文献: Milliman, R. E. (1982). Using Background Music to Affect the Behavior of Supermarket Shoppers. Journal of Marketing, 46(3), 86–91.

⑳ 認知的不協和(常連扱い)

アイデア: 2回目の来店客に「いつもありがとうございます、前回の〇〇はいかがでしたか?」と話しかける。

説明: まだ常連と思っていない客に対し「常連のような扱い」をすることで、客は「自分はこの店の常連なんだ」と認識を修正(不協和の解消)し、本当に常連として振る舞うようになります。

参考文献: Aronson, E. (1969). The theory of cognitive dissonance: A current perspective. Advances in Experimental Social Psychology, 4, 1–34.

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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

加工食品事業者や飲食店等の消費者向け商売の「マーケティング」戦略立案と実行支援に日々取り組む。 支援する事業者のスキルや、置かれている事業環境を踏まえた「実現性の高い」支援が好評である。

講演やセミナー、執筆においては、「出来ることから出来るだけ実行」をモットーに、実効性の高い内容を傾聴、傾読できる。

2016年には、記号消費論を活用した「集客の手法論」を広く世間に公開し、その内容が認められ「中小企業庁長官賞」を受賞した。

近年は、存在価値論を支援研究テーマに掲げる一方、農林水産省や環境省の委員を2013年以降現在まで歴任しており、飲食業、食品製造業、農業、水産業といった業種の政策への提言も積極的に行っている。

主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。

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