ターゲットを絞った方が、売上獲得機会が向上するのか?

はじめに:小規模事業者によくある「ターゲット設定」の悩み
規模が小さな食品メーカー(食料品製造業)や飲食店の方とお話ししていると、度々見かける誤解の1つに「ターゲットを絞った方が良いのか、拡げた方が良いのか」というテーマがあります。
先日も、支援先の菓子メーカー様よりこのようなご質問をいただきました。
「ターゲットを絞ると、売上獲得の機会が減少してしまうのではないでしょうか…?」 「客数が減るのが怖いので、ターゲットはできるだけ広く設定しても良いですか?」
小規模な食品メーカーに限らず、飲食店や宿泊業、農業の現場でも、これは非常に悩ましい議論です。しかし、当事務所の考えを先に結論から申し上げます。
結論:ターゲットを絞った方が、売上獲得機会が向上します(利益も向上します)。
この記事では、なぜ「ターゲットを絞る」ことが集客や販促において重要なのか、その理由と具体的な設定方法を、事例を交えて分かりやすく解説します。
第1章:そもそも「ターゲット」とは?
ターゲットとは、一言で言えば「自社や御店が最も価値を提供できる、理想の顧客層」のことです。
具体的に「どんなお客様に来店してほしいか」「どんなライフスタイルを持つお客様に自社の商品を使ってほしいか」といった、お客様の顔をありありとイメージすることからマーケティングは始まります。
「20代〜60代の男女」といった漠然とした括りではなく、例えば「週末に地元の食材を使った少し贅沢な夕食を楽しみたい、40代の共働き夫婦」のように、解像度を高く設定することがポイントです。
第2章:「ターゲットを絞ると売上が減る」が大きな間違いである理由
なぜターゲットを絞った方が売上や利益が向上するのでしょうか。ターゲット設定の最大の目的は、限られた予算のなかで効率的な販売促進活動を行い、獲得する売上や利益を「極大化」することにあります。
ここで、売上をターゲット設定の視点から分解する、次の算出式を見てみましょう。
・売上の算出式 = ターゲットリーチ × トライアル購入率 × リピート購入率
ターゲットを絞ると販売機会が減ると考えている事業者様は、この式の「ターゲットリーチ(どれだけ多くの人に知ってもらうか)」という側面しか見ていない可能性が高いです。
1)予算を集中させ、トライアルとリピートの「質」を高める
ターゲット設定の目的の1つに「利益の確保」がある以上、リーチ(認知)の数だけでは不充分です。実際に商品を手に取ってもらう(トライアル購入)、そして何度も通ってもらう(リピート購入)という成果に結びつけてこそ、新規客獲得から固定客獲得への道が開けます。
ターゲットを広く設定した場合、限られた予算の中ではどうしてもアプローチが「浅く広く」なってしまいます。結果として、浅く広いリーチは取れてもメッセージの密度が薄くなり、肝心のトライアル購入やリピート購入につながりません。
一方、ターゲットを絞るということは、最も収益が見込めるお客様に対して「予算と手間を集中させる」ということです。有望なターゲットに対して密度を厚く、深いアプローチができるため、結果的にトライアル購入につながりやすくなります。
2)狭く深く獲得したお客様は「ファン」になりやすい
さらに重要な点があります。浅く広く獲得したお客様に比べ、狭く深く獲得したお客様の方が、商品やサービスに対する「ニーズの合致」「理解度」、そして「感情移入の度合い」が圧倒的に強くなります。そのため、一度きりではなく、リピート購入に結び付きやすいのです。
このように考えると、「ターゲットを絞ると販売機会が減る」という考え方は、リーチのみに着目して顧客化(ファン化)を無視した、一面的な考え方であることがお分かりいただけると思います。
3)利益の極大化:「最小の費用で最大の利益」を狙う
事業を継続するには売上だけでなく「利益の極大化」が不可欠です。利益を増やすには「売上を上げる」ことと「コストを下げる」ことの2つが必要ですが、ターゲットを「なるべく拡く設定する」という考え方だと、マスに向けた広告宣伝費や販促ツール作成などのコストが大きくかさんでしまいます。
だからこそ「最も収益性の高いターゲットに絞る」必要があるのです。「最小の費用で、最大の利益が見込めるターゲット」、つまり「自社の価値に共感し、何度も購買してくれそうな方」を設定することが、小規模事業者の集客のカギを握ります。
第3章:【業種別】ターゲットを絞り込んで成功する具体例
「ターゲットを絞る」といっても、具体的にどうすればよいのでしょうか。ここでは、小規模事業者がターゲットを明確にし、熱狂的なファン(リピーター)を獲得した事例を業種別にご紹介します。
1)食品製造業(メーカー)の事例:新商品開発は「誰のどんな悩み」を解決するか
【よくある失敗】「誰にでも美味しく食べてもらえる無添加クッキー」
【成功例】「小麦アレルギーを持つ子どもに、罪悪感なくおやつを食べさせたい30代の母親に向けた、米粉100%のクッキー」
解説: 食品製造業の新商品開発において、ニーズを広く取りすぎると大手の大量生産品に埋もれてしまいます。ターゲットの悩みを深く絞り込むことで、「少々値段が高くても、この商品を買い続けたい」という強固なリピート購入が生まれます。
2)飲食店の事例:ペルソナ設定で「わざわざ行きたいお店」へ
【よくある失敗】「老若男女、誰でも入りやすい居酒屋」
【成功例】「週末に夫婦水入らずで、地元の希少な日本酒と静かな会話を楽しみたい40〜50代向けの和食店」
解説: 飲食店のペルソナ(架空の理想の顧客像)設定では、「来店動機」を絞ることが重要です。ターゲットを「静かに飲みたい大人」に絞ることで、メニュー構成や接客、内装のコンセプトが明確になり、口コミやSNSでも「大人の隠れ家」として広まりやすくなります。
3)宿泊業の事例:コンセプトの作り方で遠方からの集客を実現
【よくある失敗】「家族連れもカップルも歓迎の温泉旅館」
【成功例】「釣りが趣味のフリーランスが、仕事と趣味を両立できる『釣り×ワーケーション』専用の宿」
解説: 宿泊業では、誰にでも合う無難な宿よりも、特定の目的(趣味や働き方)に特化させたコンセプト作りが効果的です。「自分のための宿だ!」と感じたターゲットは、距離が遠くてもわざわざ足を運んでくれるようになります。
4)農業の事例:ブランディングで「意味」や「ストーリー」を売る
【よくある失敗】「安くて新鮮な地元の野菜」
【成功例】「地域の美しい湧水と蛍を守るため、農薬を使わずに栽培した環境保全型のお米」
解説: 農業のターゲティングでは、単なる農作物(モノ)ではなく、その背景にある環境保護などの「ストーリー(意味)」に共感する層を狙うのが有効です。これは「記号消費」と呼ばれる購買行動で、価格競争に巻き込まれず、定期購入(サブスクリプション)などの安定した収益につながります。
⇒記号消費については「【事例付】記号消費を活かした飲食店・食品メーカーの集客・販促ガイド|観光客を惹きつけるブランド価値の作り方」の記事を御覧ください。
5)事例の総括
いかがでしょうか。ターゲットを絞るということは、顧客イメージの解像度を上げることに他なりません。解像度を上げるためには、「誰のために、その料理が存在するのか?」「誰のために、その商品が存在するのか?」といった顧客価値という考えが重要になります。詳しくは以下の記事を御覧ください。
⇒【事例付】顧客価値(存在価値)とは?選ばれる飲食店・小売店のコンセプトの作り方
なお、合わせて顧客ニーズと内容を確認しておくと理解が深まります。詳しくは以下の記事を御覧ください。
⇒顧客ニーズとは?潜在・顕在ニーズの違いと飲食・食品・小売業での把握方法【事例付】
第4章:実践!ターゲット設定の方法とフレームワーク
では、実際に自社のターゲットをどう設定すればよいのでしょうか。競合を意識したポジショニングと、顧客ニーズの両面を検討するために役立つのが「STP分析」です。難しく聞こえるかもしれませんが、考え方は非常にシンプルでわかりやすいものです。
1)セグメンテーション(S:市場を分ける)
まずは、世の中のお客様をグループ分けします。(例:年齢、性別、趣味、ライフスタイル、抱えている悩みなど)
2)ターゲティング(T:狙う層を決める)
分けたグループの中から、自社の強みが最も活きる、収益性の高いグループを一つ選びます。
3)ポジショニング(P:競合との違いを明確にする)
選んだターゲットに対して、「他社ではなく、なぜうちの商品を買うべきなのか」という独自の立ち位置(提供価値)を明確にします。
4)総括
このようにSTP分析を通じて、顧客のイメージの解像度を上げていきます。
第5章:よくある質問(Q&A):ターゲット設定のお悩み解決
ここでは、小規模事業者の方からよく寄せられる「ターゲット設定」に関する疑問にお答えします。
Q1. ターゲットを絞ると、客層が狭くなって売上が下がるのが怖いです。
A. 確かに「リーチ(情報を届ける人数)」は減るかもしれません。しかし、ターゲットを絞ることでメッセージが深く刺さり、「トライアル購入率」と「リピート購入率」が劇的に向上します。結果として、広告費などのコストを抑えつつ、売上と利益の「極大化」が実現できます。
Q2. 飲食店でターゲット(ペルソナ)を設定する際のコツは何ですか?
A. 「30代女性」といった大雑把な枠ではなく、たった1人の実在する人物を思い浮かべるレベルまで解像度を上げることです。「どんなライフスタイルで、休日は何をしていて、外食に何を求めているか」まで具体的に言語化することで、メニュー開発や販促チラシのキャッチコピーが驚くほど明確になります。
Q3. 小規模な食品メーカーが大手企業と戦うには、どうターゲットを設定すべきですか?
A. 大手企業が手を出せない「ニッチ(隙間)な悩み」を持つ層をターゲットにすることです。例えば「特定の食品アレルギーがある」「特定の地域食材だけを好む」など、市場規模は小さくても、一度買えば絶対にファンになってくれる(何度も購買してくれる)熱狂的な層を見つけることがカギを握ります。
Q4. ターゲットは一度決めたら変えてはいけないのでしょうか?
A. いいえ、時代や顧客ニーズの変化に合わせて見直すことが重要です。まずは仮説を立ててターゲットを設定し、実際に商品やサービスを提供してみて、想定したお客様が喜んでくれているか(リピートしているか)を検証しながら、柔軟に微調整していきましょう。
おわりに:最も収益性の高いターゲットに予算を集中させよう
「ターゲットを絞る=販売機会が減る」というのは、顧客化を無視した一面的な考え方であり、合理的ではありません。
限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)で戦う小規模な飲食店、食品メーカー、宿泊業、農業の皆様にとって、「何度も購買してくれそうな最も収益性の高いターゲット」を見極め、そこに販促予算やエネルギーを集中させることが、利益向上の最短ルートです。
初稿:2016年1月10日、加筆修正:2026年3月16日
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久保 正英(中小企業診断士・マーケティングコンサルタント)

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主な著書に『飲・食企業の的を外さない商品開発~ニーズ発掘のモノサシは環境と健康(カナリア書房)』 『「お客様が応援したくなる飲食店」になる7つのステップ (DO BOOKS・同文館出版)』がある。













